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自然科学

日本の川は
生き返ることができるのか?


森田暁 博物館プランナー

 かつてありふれた魚の代表格であったメダカが、日本の川から消えていこうとしているという。今や、田園地帯のごく小さな川でさえ、三面をコンクリートで覆われた単なる水路と化してしまっており、音楽の時間に「めだかの学校」や「春の小川」を教えるのも難しい時代となった。

 そんな状況への反省から、建設省もようやく自然を尊重する必要性を認識し、1997年には河川法が改正され、自然の状態を取り入れた「多自然型川づくり」が採用されるようになった。

 とはいえ、その新方式すら本場ドイツの近自然工法とは似て非なるもので、生態保全の観点からは必ずしも満足のいくものではないという声も耳にする。

 古来、治水は国の根幹事業であり、大河ばかりは自然そのままにしておけばよいというわけにはいかない。そのことは、伊勢湾台風などかつての風水害のことを考えればわかりやすい。それでは、安全を守りながら自然を保護することはどうすれば可能なのだろうか。また、数年前の長良川、現下の吉野川の堰の問題とはいったいどういうことなのだろうか。こういった疑問に答えてくれる本を2冊紹介しよう。

 『川のなんでも小事典』は、土木学会関西支部に属し、大学で河川工学を研究したり、建設コンサルタント会社で治水計画や多自然型川づくりに実際に参画している、主に戦後生まれの6人のメンバーが専門の項目を担当して編んだもの。V字谷、扇状地、蛇行、デルタ地帯といった川の形態に関する基本から説き起こし、川の流れと渦、川をめぐる生態系、河川工学の歴史と現在、さらには発電、河川舟運などの利水にいたるまで、およそ川に関するすべてをコンパクトにまとめた本である。

 さらに突っこんで、魚類などの河川の生態系を保存しながら河川を管理する河川工学の最新の動向を知りたい方にお勧めなのが、『河川生態環境工学』である。建設省、大学などの河川工学者と水産学者、生物学者など14人の共著で「河川改修の計画を担当している技術者には魚と生物のことを、生物の関係者には河川改修の歴史と実務を互いに知り合うことを目標」とした本であるために、専門書でありながらその大部分は一般の読書家にも耐えられる内容となっている。

 生物にとってのきれいな水についての解説と河川魚類の生態の概説に続く、本書の要にあたるのが第四章の「生態環境に配慮した河川工学」で、魚類などの生物が棲むためには河川はどういう多様性をもっていなければいけないかが具体的に示される。巻末には用語索引などもあり、親切な書物である。


川のなんでも小事典 河川生態環境工学

『川のなんでも小事典――川をめぐる自然・生活・技術』
土木学会関西支部 編 講談社 \1,140
(本体価格)

『河川生態環境工学――魚類生態と河川計画』
玉井信行・水野信彦・中村俊六 編 東京大学出版会 \3,800
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第242号 1999年(平成11年)6月1日 掲載


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