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可能性を伸ばすもの・阻むもの


片岡千鶴 映画評論家

 『グッド・ウィル・ハンティング』は現代社会が舞台の人間臭さをプンプン漂わせたヒューマン・ドラマであり、『ガタカ』は未来社会が舞台の無機質な雰囲気を漂わせたSFものだ。

 この一見ジャンルもスタイルもまったく違う二つの作品には、実は、物語の最初から最後まで一貫して問われ続ける共通のテーマがある。

 前者の主人公は、類まれなる天才的な頭脳を持つ青年であり、後者の主人公はエリート集団のトップを走る青年だ。

 前者の主人公であるウィルは、一度読んだ本の内容は絶対に忘れない。学者たちが数年かけて解いた問題もわずか数分で解くことができる。しかし、そんな彼は虐待され続けた境遇のせいで、精神的に大きな問題を抱えている。決して他人を信用することができず、窃盗や暴力沙汰を繰り返している社会の落ちこぼれだ。

 一方、後者の主人公ビンセントは、DNA操作で生まれた“適正者”とそうでない“不適正者”に分けられる未来社会で、エリートたちのトップの座にいる青年である。やることなすことすべて完璧にこなす。決してミスをせず、常に最高点をマークする。ところが、実は彼は“適正者”ではない。IQが低く病弱で寿命は30歳と宣告された“不適正者”なのだ。ビンセントは血のにじむような努力をし、事故で半身不髄になった元“適正者”ユージーンの血液や尿や毛髪のサンプルをもらって身元を偽っているのだ。

 『グッド・ウィル・ハンティング』では、ウィルは精神分析医のショーンと運命的な出会いをすることによって人生のターニング・ポイントを迎える。そして、『ガタカ』のビンセントは、いつ正体が判明するともしれない緊迫感が張りつめる日々のなかで、ひたすら夢の実現をめざす。

 とはいえ、これらの作品は決して一人の青年を大人たちが立ち直らせるという単純なものではないし、人間努力さえすればなんでも可能だという理想論のみを打ち出しているものでもない。両作品のなかで扱っているのは、主人公の葛藤だけではなく、彼らを取り巻く人々の葛藤でもある。それは可能性への希望と同時に、挫折や限界という厳しい現実もまた投げかけている。

 人間の能力や運命を決定するものとは何か? またその可能性を伸ばすものとは? そして阻むものとは? このテーマをいま一度見つめ直すことができる、あくまで前向きな、そしてさまざまな要素が詰まった2作品だ。


グッド・ウィル・ハンティング ガタカ

『グッド・ウィル・ハンティング』
カラー/ステレオ/
127分
松竹富士 \3,800
(本体価格)

『ガタカ』
カラー/ステレオ/
106分
ソニー・ピクチャーズエンタテイメント \2,980
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第242号 1999年(平成11年)6月1日 掲載


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