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一般書

本を片手に歴史散歩


あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト

 気の早い話だが、来年のお年玉は羊羮かミカンにでもしようか、と冗談にも思いついたのは、『百年前の東京絵図』のせいである。

 本書は、1965(昭和40)年に96歳で亡くなった記録・報道画家山本松谷の絵図に、山本駿次朗が短文の解説を、まるで小粒のサンショウのようにピリリときかせている楽しいカラーの文庫本だ。

 例えば日本橋の新年の風景を描いた絵図に関連して、お年玉事情が説明されている。なんと当時は半紙、海苔、ミカン、羊羹などがお年玉として一般的だったという。また、出入りの商人は自分の商売物の一品を使うことが多く、「お年玉で家業がわかる」と言われたほどだ。ちなみに100年後の今や、子どもたちのお年玉として飛び交っているのは1万円札である。

 そんなことをあれこれ考えながら身近な町や都市の昔を知り、大きな「歴史」への興味が自然に始まればいいなあと思う。私たちは、住んでいる場所、知った気になっている日常の生活の場所を、単なる場としてしか認識しないことのほうが多いのではないか。だから、例えば東京人にはこんなハンディな本があるのは愉快だろう。大人も子どもも楽しめる。それこそ東京の電車や地下鉄、バスに乗りながらページをめくるのも一興。

 さて、都市は都市でも外国に目を移そう。東京に対して、例えばニューヨーク。相変わらず日本人のニューヨークの人気は衰えてはいない。おそらくニューヨークほど日本のメディアに頻繁に登場する都市もないだろう。あらゆるテレビ番組、コマーシャル、雑誌記事、ポスターなど。だが、それはちょっとしたおしゃれな背景でしかないことも多いし、また外国の町の探索というとついガイドブックになってしまい、「食べる」と「買う」ばかりが中心になりがちな観光が定着している。

 何度となく訪れて知った気になっている人も、なんとなく興味をそそられて行ってみたいと思う人も、一度町を知るという意味でぜひ、『無限都市ニューヨーク伝』を読まれたし。

 『百年前の東京絵図』とは違って分厚い1冊で、決してハンディではない。が、読み始めればたちまちニューヨークがリアルな魔力の立体として確実に目の前に立ち上ってくるのである。例えば、セントラルパーク。およそ無法者の溜り場であったこの地で黄熱病が席巻した直後に着手された巨大な人工(!)公園。世界的に知られるこの憩いの場の誕生物語を知る。

 ページを開けば、心は町や都市の昔に飛ぶ。どちらの書も癖になる歴史散歩の魅力でいっぱいだ。


百年前の東京絵図 無限都市ニューヨーク伝

『百年前の東京絵図』
山本松谷 画・
山本駿次朗 編
小学館文庫 \638
(本体価格)

『無限都市ニューヨーク伝』
マイケル・パイ 著
安岡真 訳
文藝春秋 \3,786
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第243号 1999年(平成11年)7月1日 掲載


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