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ヤングアダルト

ひと目ぼれする
装丁の美しい本


増田 喜昭 子どもの本屋
「メリーゴーランド」店主

 本を選ぶ、それも本屋の中をぶらりと歩きながら何げなくふっと手に取る。そんな気にさせるのは、タイトルや作者名によるところが多いのだろうが、ぼくは本の美しさに心を動かされることが多い。

 手描きのタイトル、しゃれたイラスト、全体の雰囲気、本の大きさや手にした時の感触が気に入れば、興味のない内容でも、読めない外国語の本であっても思わず買ってしまうくらいだ。

 今回紹介する2冊は、作者名と装丁の美しさとの両方で選んだのだが、なんといっても、今のっているイラストレーターの荒井良二の絵には、思わず手が伸びてしまう。

 『ぼくの小鳥ちゃん』の中にちりばめられた数多くのイラストレーションを見ていると、まるで絵本のページをめくっている時のように吸い込まれてしまう。

 小さなギャラリーで小さな絵を1枚ずつゆっくり眺めながらお茶を飲んでいるような、特別な気分になるのだ。

 それにしても江國香織という作家は、日常を描くのがうまい。「うまい」という表現はうまくないかもしれないが、洗濯をする、食事を作る、お茶を飲む、街に出かける…その小さな描写の一つひとつに感激してしまう。しかも、主役は小さな鳥なのだ。「まいったなあ…」という感じ。ぼくはあわただしい日常のなかで、そんなふうにいろんな物事を見ていない。

 江國さんのファンは若い女性が多いとよくいわれているが、とんでもない、ぼくのようなおじさんにこそ、この物語は読まれるべきなのだ。

 なんだか力が入ってしまったけれど、もう1冊の『レターズ・フロム・ヘヴン』を読んでみると、江國香織の翻訳というか、言葉の選び方のすばらしさにため息が出る。

 この本も、表紙から強烈である。なんといっても「天国からの手紙」なのだ。死んだはずのおばあちゃんからの手紙、それに返事を書き続ける孫のケイティ。まるであの『あしながおじさん』のように、手紙のやりとりを続けるこの二人の言葉のなかに、読者は自分の親しい人たちの死を重ねながら深い感動を味わう。

 私事で恐縮なのだが、ぼくも1冊だけ、自伝のような本を書いた。『子どもの本屋、全力投球!』(晶文社)というのだが、なぜか“まえがき”のところに“おじいさんへの手紙”というのを書いた。自分の物語を振り返る時に、真っ先に現れてきた人物だったからである。ある人の死は、ある人の生につながっているのだなあ…としみじみ思う。


ぼくの小鳥ちゃん レターズ・フロム・ヘヴン

『ぼくの小鳥ちゃん』
江國香織 著
荒井良二 画
あかね書房 \1,200
(本体価格)

『レターズ・フロム・ヘヴン』
レイチェル・
アンダーソン 著
江國香織 訳
荒井良二 画
講談社 \1,300
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第245号 1999年(平成11年)9月1日 掲載


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