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教育・一般書

本格的情報公開時代に備えて


荒巻正六 学校問題研究家

 地方自治体の情報公開条例や個人情報保護条例が制定され始めてから10数年もたち、国の情報公開法(正式には「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」という)が成立したのがこの5月であった。いよいよ国をあげての本格的な情報公開時代に入ったという矢先、ある中学校で、入学してくる生徒の学力や家庭環境を調査するため小学校に配布した調査票の調査項目について、小学校側から「不適切だ」と指摘され調査票が回収されたという報道があった。家庭環境調査が問題になり始めてから20年にもなるし、ここ数年、職員会議録、生徒の作文、教師のメモ、「エンマ帳」といわれる指導手帳までが問題になる時代になって、教育活動や学校運営にかかわる情報の収集・利用・保管・廃棄に関し、文部省も教育委員会もやっきになってその啓発に努めてきたのに、うかつな話ではなかろうか。

 そこで今回は念押しにはなるが、国の情報公開法成立を機に、いち早くその全文を紹介し、情報公開制度を要領よく解説した『よくわかる情報公開制度』と、理論的研究書として出色の『学校の情報公開』の2書を紹介したい。

 前者は読売新聞記者・青山彰久氏の著したもので、情報公開の必要性、その歴史と現状、制度の仕組みなどを広く、手軽に要点を理解できるのが特徴である。

 後者は行政法、教育法のすぐれた研究者で、現在東京都立大学名誉教授の兼子仁氏と東京都の指導主事や中学校長を務めた早川昌秀氏の共著で、情報公開研究書では、ほかに 類のない精緻な理論構成とはっきりした主張のものであり、豊富な資料編が特に参考になる。資料編には、各種審査会の報告書・答申書、指導要録や内申書についての異議申し立てに関する地裁や高裁の判決文等の生の資料がそのまま載っている。その内容のほんの一部を要約し、紹介しよう。
  • 隠して成り立つ信頼関係とはなんなのか。
    (著者・資料編)
  • 生徒や親と教師との議論によって常に正しい評価に達するというものでもあるまい。
    (東京高裁・資料編)
  • 個人が自分のマイナス評価を冷静かつ率直に受け止めることができるのは、それ相当の内面的成熟が必要であり、児童・生徒本人に直ちにこれを期待することはできない。
    (東京高裁・資料編)
  • 最近の子どもはわりあい気軽に友人の名前を感想文や日直日誌等に書くので取り扱いに注意。
    (著者・本編)
 そのほか、教師の日常生活のなかには数多くの「うかつさ」があることを本書は気づかせてくれる。まさに情報民主主義時代の必読の一書であろう。


よくわかる情報公開制度 学校の情報公開

『よくわかる情報公開制度―情報公開って何?』
青山彰久 著 法学書院 \1,600
(本体価格)

『学校の情報公開』
兼子 仁・
早川昌秀 共著
ぎょうせい \3,000
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第246号 1999年(平成11年)10月1日 掲載


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