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一般書

鮮明な像が浮かび上がる
“インタビュー”というかたち


あわやのぶこ
 異文化ジャーナリスト

 単なる宣伝と化している、映画スターへの手慣れたインタビューなどは別にして、インタビューという作品のかたちはとても興味深いものだ。

 今まで生きてきた時間にしてみればほんの一瞬ともいうべき時を、インタビューされる者はインタビューする者と共有し、そのかかわりのなかで言葉が吐かれ、言葉が生み出され、情報、表情、気分などが表出する。

 「20世紀はこうしてつくられた」というキャッチフレーズよろしく『インタヴューズ』は、歴史的な人物が並ぶインタビューのアンソロジーだ。毛沢東、ガンディ、スターリンからモンロー、ピカソ、ノーマン・メイラー、ベケット、ヘミングウェイなど、キラ星のごとく、いや世紀の怪物のような人間たちが続々と登場する。聴き手、書き手であるジャーナリストも、当然、負けてはいない。互角に処するつわものたちで、それぞれの個性が際立つ。結果として、会話形式で書かれた作品もあれば、散文のなかに入れ込んだもの、全体としてエッセイ風のものなどさまざまだ。が、いずれにせよ、そのなかで浮かび上がるのは、その時間のなかで聴き手によって鮮明に切り取られた像であり、また聴き手自身の姿勢である。

 『約束された場所で』は小説家・村上春樹が、オウム真理教による一連の事件をきっかけにオウム真理教の信者(および元信者)8人にインタビューしたもの。彼らのなかには、その後も教団にかかわっている者、辞めた者、またそれ以前に教団を退団した者もいる。彼らは信者(および、信者であった)という共通項を持つが、例えばサリン事件における教団や麻原教祖に対する気持ちや意見は異なっており、そのほかにも人によってさまざまな視点、考え方や思いが出ていて、こちらが勝手に描きやすいステレオタイプの信者像は結びにくい。だが、この複雑さ、立体的な像こそがこの本の魅力である。

 村上春樹は彼らと話をしていて、小説を書くことと宗教を希求することの類似性を相違点とともに見いだしたという。彼らに興味をかき立てられたのも苛立ちを覚えたのもその点だった、と記している。被害者の苦しみと事件への深い怒りを持ちながらも、著者は「非難弾劾するためにこのインタビューをおこなったわけではないし、また彼らを新しい視点から再評価するためにおこなったわけでもない」と言う。真摯に、限りなく同じ位置で対話しようとする彼が本書で提出したかったのは、前作の『アンダーグラウンド』同様、「明確な多くの視座を作り出すのに必要な血肉のある材料(マテリアル)」であった。新聞や週刊誌ではまったく見えない、重要な何かがにじみ出ている。


インタヴューズ 約束された場所で

『インタヴューズ』(全2巻)
クリストファー・シルヴェスター 編
新庄哲夫ほか 訳
文藝春秋 \3,333
(本体価格)

『約束された場所で』
村上春樹 著 文藝春秋 \1,524
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第247号 1999年(平成11年)11月1日 掲載


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