自然科学・教育書最先端の化学を、もっと身近に 森田暁 博物館プランナー |
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残念なことだが、自分でもほれぼれするほど授業展開がうまくいったとしても、教科書に沿った授業内容そのものを生徒たちが覚えていることはまれである。テストなどでその記憶が相殺されてしまうのであろう。 生徒たちの記憶に残るのは、教師の雑談であることが多いのではないだろうか。そこで今回は、化学関係の雑談のタネになる新刊書を2冊紹介しよう。 『なぜ原子はつながるのか』は、「高校からの化学入門」シリーズの最初の1冊である。化学のいちばん基本である化学結合の入門書で、アヴォガドロの分子論から今世紀初めの量子力学の成果を受けて、最新の生物模倣化学、超分子化学の登場までを、高校程度の知識を前提にし丁寧に解説する。結晶構造や、電子軌道などの図が数多く、とてもわかりやすい。アヴォガドロ数、凝固点降下など重要な用語については、本文と独立してコラムで解説しているのも親切である。また、各章ごとにその内容がまとめられているので、反すうしながら読み進めていくことができる。 シリーズのほかの3冊は、「構造」、「反応」、「合成」をテーマとしており、全体で現代化学のあらましをとらえ、そのうえで、学校で学ぶ化学と、最先端の化学とのギャップを埋めることができるようになっている。著者は神奈川大学理学部教授で、何冊かの有機化学の教科書の著者として有名である。 『化学の未来へ』は、もうワンランク上の本だといえよう。大学生向けの化学関係の啓蒙書出版で名高い出版社から出され、「ケミカルパワーが時代をつくる」と銘打たれている。化学は、いろいろな学問のなかでも特にわかりにくいようにみえるが、意外に身近で、最先端の化学がわれわれの生活のいたるところで使われていることを明らかにしてくれる。著者は、工学部や医学部の教授から、製薬、エレクトロニクス、印刷などの企業研究所の研究者まで多彩で、さまざまな分野における先端化学を紹介する。第1部は「生命」がテーマの6つの章からなり、「こころ」の病気を薬でなおす、など薬学の最新情報が紹介される。第2部は「技術」で、エレクトロニクスにおける化学の応用が、第3部は「社会」で、食糧問題、プラスチック、エネルギー問題の最前線が解説される。理科の教師のみならず、興味がそそられる内容だといえよう。 |
『高校からの化学入門(1) なぜ原子はつながるのか』 | ||
竹内敬人 著 | 岩波書店 | \2,000 (本体価格) |
『化学の未来へ―ケミカルパワーが時代をつくる』 | ||
近畿化学協会 編 | 化学同人 | \2,200 (本体価格) |