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「チンパンジーと自然のお話」
ジェーン・グドール博士

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 皆さん、こんにちは。まず最初にチンパンジーのあいさつをしたいと思います。チンパンジーのあいさつは通訳できません。チンパンジー語ですから。
ホホホホホーホー!!(拍手)

「こんにちは」って言ったんです。相手の声をチンパンジーがとても気に入りますと、返事をしてくれます。

 私は10歳か11歳、皆さんと同い年位の頃からアフリカに行こうと考えていました。10歳位の頃、私はターザンが大好きでした。そしてアフリカに行って、ターザンのように動物と一緒に生活し、それについての本も書きたいと思ったのです。しかし、お金もない上、アフリカはとてもとても遠い国でした。そんな所には行けるわけがない、と誰もが思っていました。でも、私のお母さんだけは違いました。母がいつも教えてくれた言葉を皆さんにもお教えしたいと思います。「ジェーン、何かを本当にほしいんだったら、一生懸命努力すれば、あらゆる機会を捉えていけば、そして決して諦めなければ必ず道は開けるのよ」これは、とても大切なメッセージです。皆さんも一生懸命努力し、決して諦めなければ、必ず私と同じように道が開けるのです。私はお金を貯めて、23歳の時、アフリカへ行く事ができました。
 私たちはまずゴンベ国立公園に行きました。その時、私にとっていちばんの問題だったのは、チンパンジーが、「恐ろしいような、白い肌をした、猿のようなものがいる」と私のことを怖れていて、私の姿を見ると逃げていってしまうことでした。でも忍耐強く頑張り、少しずつこの素晴らしい動物の野生での生活の仕方を学ぶことができたのです。大体50位のチンパンジーのコミュニティーがあったのですが、その中でも、あるチンパンジーは友達同士だったり、別のチンパンジーのことは嫌いだったりするのです。どんな食べ物を食べているのかも分かってきました。果物、葉っぱ、花、茎や昆虫を食べたり、狩りをして肉を食べることもありました。このようなことを色々学んでいく内に、チンパンジーも私に慣れてくれて、最終的には、私もチンパンジーのそばに近寄ることができるようになりました。そして彼らが一匹一匹姿形の違うことがわかったのです。
 チンパンジーの子どもは人間のように学ばなくてはいけないことがたくさんあります。例えば、コミュニケーションに使う色々なジェスチャーを勉強しなくてはいけません。また、チンパンジーの子どもたちは道具の使い方も学ばなくてはなりません。チンパンジーが道具を作ったり使ったりできるということは素晴らしい発見でした。以前は人間しかできないと思われていたことなのです。ゴンベでは、草を使って白蟻を巣から吊り上げるのに使っているところをよく見かけます。チンパンジーはこのように枝から葉っぱを取り除いて道具を作ります。道具を作り、使う方法を、母親や兄姉のやることをみて真似をし、最後には自分でできるようになるのです。アフリカの色々な地域でチンパンジーの研究がされていますが、地域によって道具の使い方は異なっています。つまり、それぞれ独自の文化を持っているわけです。
 ゴンベに住むチンパンジーはとてもラッキーです。なぜなら、彼らは恐怖に怯えることなく暮らせるからです。他の地域では、昔は数百万頭もいたチンパンジーが、どんどん減ってきています。それは、森が切られ、ハンターに狩られてしまうからです。ハンターは食べたり、赤ちゃんを売るために母親を殺してしまいます。特に最近は、食糧用に殺されるチンパンジーが増えています。森林を切り拓く会社が入ってきて木を切り倒してしまったため、ハンターはトラックでもっと奥地へ入れるようになってしまったのです。こうして動物がどんどん減ってしまい、今では木の残る森の奥へ行っても、小さな鳥しかいないような状況になっているのです。
 1960年、私が初めてゴンベ国立公園に来た時は、タンガニカ湖という細長い湖の岸辺からずっと緑の森が続いていましたが、今では10マイルも東に行くと木がなくなっています。森林だった所が砂漠になっている地域もあります。チンパンジーは、かつてそこに住んでいたヒヒなど他の動物と一緒に、どこか別の所に隠れてしまったようです。
 私たちは、あるプロジェクトを始めました。木の苗を育てて様々な村に植えていくのです。27の村に植え終わり、今、緑を守り森を残すことがどんなに重要か教えているのです。チンパンジーやアフリカの問題は日本の皆さんからは遠い話に聞こえるかもしれませんし、「どうしてアフリカやアジア、南アメリカの森林のことを日本が気にしなくちゃいけないんだ?」と思うかもしれません。お話ししたいのは「私だけなら・・・」と考えることについてです。例えば環境のことを考えれば、やってはいけないことがあります。小さな電池の中にも酸があり、それを土の中に捨てれば土は汚染されていきます。それは何年も土の中に残り、汚染が続きます。でも、あなたは、「小さい電池だし、他の人もしているのに、自分の1本ぐらいどうせ変わりない」と考えてませんか? あるいは、歯磨きの時に水を流しっぱなしにしていませんか? 自分一人なら大したことないと思うかもしれません。しかし、環境のことを考えていけばどうなるでしょう。もし、何百万人という人が「自分一人がしなくても」と思うのではなく「自分一人だけでもやらなければ」と思うようになる、その違いを考えてみて下さい。
 アフリカ生まれのジョジョというチンパンジーは、2歳の時に母親が銃で撃たれ、アメリカに送られてきました。10年位たった一人で、鉄のおりの中に押し込められていました。その後、動物園では大きなチンパンジーのおりを作り、19頭のチンパンジーが集められました。チンパンジーは泳げませんので、逃げないよう周りにお堀もつくられました。ジョジョは大きなオスに闘いを挑まれたのですが、幼いときに母を失い、ずっと一人きりだった彼は戦いを知りませんでした。ジョジョはとても驚き、とうとう水の中に飛び込んだのです。彼は水に沈んで、何度もあえぎながら、また沈んで見えなくなってしまったのです。その様子を見ていた飼育係はとても助けられないと立ちつくすだけでした。が、ジョジョにとって幸運なことに、リック・スウォープという人が飼育係が止めるのも聞かずにお堀に飛び込んだのです。そしてジョジョをしっかり抱え上げてきたのです。ジョジョは水を吐き出して、数歩登って、平らな場所で横になり体を休めることが出来ました。
 その夜、北米中のテレビで紹介されたのを見て、私の研究所の所長がリックに電話をかけて聞きました。「あなたは勇敢な人です。危険だと分かっていたはずなのになぜ、そうしたのですか」と。リックは「私にはジョジョの目が見えたのです。それは人の目のようで、誰も助けてくれないのかと訴えていたんです」と話してくれました。私は市場で売られている子どものチンパンジーや、サーカスや医学の研究所で使われたり、おりに閉じ込められているチンパンジーの目や色々な動物たちの目にも同じような苦しみを見ることができます。アフリカの内戦で親を失った子どもたちの目も同じです。人であれ動物であれ、私たちより幸運でない人も同じ眼差しです。世界中の人がそうした眼差しに気づいて、行動していけば、将来に希望ができると思います。そして、ぜひ皆さんにも参加してもらいたいと思うのです。

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