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●シンポジウム取材レポート●

活発な意見が交わされた「中高生のデジタルな友達づくり」

 行ってきました。3月8日に開催された「第1回CRN子ども学シンポジウム」。天気のいい土曜日ということで、会場隣にある秩父宮ラグビー場へ流れる人もいるんじゃないかと心配しましたが(?)、開会時間の午後1時半には用意された250シートがほぼ満席。研究者や教師と思われるスーツ姿の熟年層に加え、ネットワーク企業の関係者やマスコミ、カジュアルに身を包んだ大学生や大学院生の姿も。またインターネットを通じて初めて“子ども学”の存在を知った人、そして現代人が今後、デジタルメディアやネットワーク社会とどう係わっていくかに関心を寄せる幅広い層の人々が、オフラインにも係わらず多数足を運んでいたようです。

 さてシンポジウムは、CRN所長・小林登さんの挨拶で幕を開けました。ここで小林さんは、昨年7月に開設されたCRNに現在1日1000件以上ものアクセスがあることを報告。こうした子ども学への関心の高まりを背景に、サイバーな場とリアルな場でのインタラクティブな研究の融合を図るのが、今回のシンポジウム最大の目的であると語りました。

 続いて慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科石井研究室の河村智洋さんによる基調続き報告へとバトンタッチ。ビデオを効果的に用いたリアリティあるレポートはなかなか見応えがありました。言葉では聞いたことのあるプリクラやポケベルの“イマドキの中高生的使い方”、それが実際どういうものなのかを、このとき初めて知った人も少なくなかった様子です。
 例えば取材を終えた直後から、彼(河村さん)のポケベルにメッセージを入れ続けている女子高生との微笑ましいやり取りが公開され、会場からは思わず笑いが起こる一幕も。さらにビデオでは、1000枚ものプリクラを貼ったノートを自慢気に見せる女の子、プリクラやポケベルの学校持ち込みに苦慮する現場の先生へのインタビュー、そして友達の数は100人以上と答えた子が20%もいるアンケート結果など、デジタルメディアと中高生、友達同士の関係性をめぐる、さまざまな実態とデータが多数報告されました。

 これを受けて2時過ぎから、いよいよパネルディスカションがスタート。司会のあわやのぶこさんに続き、香山リカさん、竹村真一さん、藤田英典さんの3人がパネリストとしてステージに登場しました。ちなみに女性2人は、共にダークで細身のコンテンポラリールック、竹村さんは黒のジャケットスタイル、そして藤田さんは落ちついたスーツ姿と、皆さんなかなかおしゃれです。加えて入場者に配られたシンポジウムのパンフレットには、パネリストたちの顔写真が、それぞれプリクラで作って貼ってありました。これは本当に素晴らしいアイデア。大人でも妙にかわいく写る(?)プリクラの表現力を目の当たりにすると、子どもでも大人でも、プリクラを人に見せたり交換したくなる気持ちが自然にわかるような気がしてきます。

 それはともかく、ディスカッションはまず基調報告を受けての感想を話し合い、それからフリーディスカッションへ移行するスタイルで進められました。今回のシンポジウムのテーマは「中高生のデジタルな友達づくり」。当然メインの議題となったのは、どうして続きプリクラやポケベルがこれほどまで流行したのかということ。ここで竹村さんは「今の子どもたちは、たとえ相手の顔が見えなくても、たとえ言葉の内容が稚拙でも、自分のメッセージに応えてくれる他者を通し、自分という存在を見出そうとしているのではないか」と分析。自分が世の中に属している“属人化”を確認するためのツールとして、プリクラやポケベルを使っているのではないかと発言しました。

 また藤田さんは「男の子はビックリマンシールを集めて、外側に壮大な世界を作り上げようとしたが、女の子は自分の世界を作り上げるためのメディアとしてプリクラを使っているのでは」と分析。メディアが単なる伝達のための手段でなく、それ自体がさまざまなメッセージを伝えるメディア(媒体)であると考えるなら、ポケベルやプリクラの媒介するメッセージが、人間の思考や人間関係の展開にどのような影響を及ぼすのか非常に興味があると発言しました。

 一方の香山さんは、デジタルメディアが媒介する、新しい友情やコミュニケーションのあり方にも言及。「登校拒否や家庭内暴力で苦しんでいる、心に何らかの問題を抱えた子どもたちが、もしパソ通のチャット友達やゲームのキャラクターに“親友”という想いを感じても、それをネガティブに見るのは一方的すぎる」とし、通常の人間関係が負担に思える彼らこそ、デジタルメディアで救われる可能性があるのではないかと訴えました。

 このほかにもインターネットが学校教育やコミュニティ、社会システムにどのような影響を与えていくのか、そしてリアルとバーチャル、イマジナリーな世界が交差する状況などで白熱した議論が交わされた後、次なる研究課題を提言する形で終了。時間的制約はあったものの、充実した意見と明確な論点が提示された印象を受けました。当日の詳しい内容は近日中にアップロードする予定です。それまでもう少しの間、お待ちください。

(レポーター/白井和夫)


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