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サイズが課題

イギリス政府が小学校の1クラスの人数を30人以下に減らすことに必死になっている一方で、大西洋の反対側ではアメリカの多くの州が小学校低学年のクラスを20人、また場合によっては15人までにも引き下げている。アメリカの地元の政治家や教育者たちは、ますます多くの団体により証明される小さなクラスの成功に理解を示している。一方、イギリスの政治家は30人は少人数であると主張し続けている。

イギリスにおいては、規模の小さな学校の効果についてのアメリカの研究はあまり知られていない。シカゴにあるスモール・スクール・ワークショップ(www.smallschoolsworkshop.org)によってまとめられた研究は、小さい学校は生徒の態度、達成度の全ての面において大きい学校よりも優れているとしている。そして教員は小さい学校を気に入っており、カリキュラムが悪化したり、よりお金がかかるということもない。この研究結果を踏まえ、例えばニューヨーク市の教育委員会は、困難に陥っている大規模の学校を何校も閉鎖し、それぞれの学校を小さく、独立したユニットに分かれているキャンパス(学びの場)へと取り替える画期的な変革を行った。

この研究は大きな学校、つまりその経済的な大きさと様々な教科を提供することができるという利点に基く議論に挑戦するものである。しかしこの研究の結果は本当に私たちにとって驚くべきものであろうか。大人として、私たちは自分たちが小さな規模の環境でよりよく働けることを知っている。そして実際このために多くの職場では、小さなグループやチームで働けることができるように再組織化が行われている。小さな社会的組織がより効率的であるという証拠がどんどん見つかっているときに、なぜ私たちは未だに若者に大きな、人間的でないそして融通の利かない組織を押し付けたままにしているのだろうか。

もし教育が若者を責任感があり、全人的な人間として、自ら人生を充実したものとし、社会に貢献ができる人となるための発達を助けするものであるならば、小さな組織はこれを達成する手助けとなるだろう。小さな組織において教員は生徒を個人として知ることができ、それぞれの特別なニーズに答えることができる。小さな組織では生徒は自分がコミュニティーの一員であり、自分たちの学びの環境の所有者であるという感覚を持つことができる。そしてまた保護者も自分たちの子どもの教育についての活動的なパートナーになりやすくなる。これらは小さな学校の利点のほんの一部分である。

1986年に設立されて以来、「ヒューマン・スケール・エデュケーション」は小さな組織と親しみのある個人的な関係がよい学びそしてよい教授の基盤になるものであるという信念に基いている。そして子どもたちはみな異なっており多様な教育の提供の必要性も認識している。過去20年間にわたり年々強まってくる中心的なコントロール主義は、学校が一番必要としているもの、つまり学校がそこに通う子どもたちが必要としているもの、その地域の状況が必要としているものに独立して対応していくということを妨げている。「ヒューマン・スケール・エデュケーション」は過去15年間、これらの視点を分かち合い、新しい小さな学校や学習センターを設立しようとする保護や教師の集まりをサポートしてきた。そして大規模な学校にはより小さく、人間的なサイズの学びの環境を見つけていくことを励ましてきた。

この第2番目の関心分野の一環として、団体は「人間的なサイズの価値を中高等学校に」というイギリスの中高等学校における事業を1996年に開始した。そして教育がより親しみやすく個人的な経験となる小さなサイズにおいて、生徒とともに活動を行う画期的な事業を試みようとする学校に助成金を与えた。

2回に渡る募集には、助成金への様々な学校からの応募があった。前回の募集では、以下の中高等学校の事業が助成を受けた。
  1. 予算をしっかりもった生徒会の導入を補助することによって学校内に民主主義の風土を育てる
  2. 学校内において追いやられた立場、または退学させられそうな子どもたちに16−18歳の段階においてオルタナティブなカリキュラムを導入する
  3. 1教師あたりのクラスの人数を減らし、より統合されたカリキュラムを導入することによって中高等学校へ進む生徒に、教師と生徒のよりよい関係作りを行う
  4. 地域の小学校やコミュニティーを巻込んだ環境フェアを通して環境政策や実践を実行していくことを手助けする
助成金の応募者の多くが教師と生徒の関係をよりよくし、子どもたちの自尊心や自信を取り戻そうとする事業を実施したいと考えている学校であった。国定カリキュラムの行き過ぎた学術的側面の強調は、学校における人間的そして社会的な教育側面を腐食させた。応募者が主張している必要性の程度を見ると「電池がきれてしまった」若者たちとどう付き合っていくかという多くの学校が経験している課題を物語っていた。

これらの事業の全てに共通している点は、それぞれの学校が自分たちの生徒や自分たちの特別な状況にあうように事業をデザインしているという点である。「ヒューマン・スケール・エデュケーション」はこのような視点を持つ方法が肯定的で、継続的な変化をもたらす一番効果的な方法であると信じている。4つの学校の全てはより革新的な構造変化に向け動いていく課程において「小さいこと」の重要性を認識している。それぞれの学校は、小さいグループが教師と生徒の関係を改善していくことのみに役立つのではなく、学びに対してより肯定的な態度を育てていくことにも役立つことを認識した。

アメリカ合衆国においては、小さくそして人間的なスケールの教育の重要性が研究や政策においてますます認識されてきている。ここ英国の教育者も現在の学校モデルがその便利さを通り越し、現代社会において子どもたちのニーズにあっていないということに気づきはじめている。

「中高等学校事業」は人間的サイズの学校を創るために1つ1つの学校と活動していく計画の第3次段階に入ろうとしている。子どもたちが理解され、価値あるものとされ、そして個人個人として教えられる人間的スケールの学びのコミュニティーへの大規模な学校の変革の手助けを続けていきたい。

フィオナ・カーニー
コーディネーター
ヒューマン・スケール・エデュケーション
(日本語訳: 山下博美)

*小さな学校(スモール・スクール)や小さなクラスを推進していく任意団体。オルタナティブ教育を行う学校や新しく始めようとする保護者への情報や研修を提供。

より深く知りたい方は、ヒューマン・スケール・エデュケーション ウェブサイト(www.hse.org.uk )をご覧ください。また「中高等学校事業」についてのレポートも出版されています。



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