イングランドにおけるカリキュラムの変化と教育の変化 |
北ロンドン大学 教育政策研究所代表 アリスター・ロス教授 |
1986年までイングランドにおいて国定のカリキュラムはなかった。その時点まで、学校で何が教えられるべきかを決定する仕事は教育省から地域の教育委員会に委任されていた。教育省の仕事は主に公式の視察官を学校へ派遣し、時折幅広い範囲のアドバイスを与えることであった。教員や教育委員会のメンバーから成るカリキュラムや試験についてのアドバイスを与える全国組織もあり、1964年から1986年には特定の科目のカリキュラム考案についてのアドバイスを提供した。16歳と18歳の生徒に対する全国的な試験の制度も存在したが、これらの公的な試験のほとんどは成績のよい生徒のためにあり、全ての生徒に対して卒業の際に行なわれる総括的な試験についての教育政策は1985年まで始まらなかった。統括的な試験がないながらも、ほとんどの中高等学校では科目やカリキュラムの本質について広く意見が一致していた(部分的には外部の試験のシステムにも影響されて)。試験に追いたてられない小学校において、カリキュラムについて広い意味での調和は取れていた。 国定カリキュラムは1986年に提案され、1988年より実施となった。それは教育をよりきちんと責任の所在があるものとし、より市場に直結したものとしようとする政治的な意図と繋がっていた。国のレベルに当てはめて生徒をテストすることにより、政府はそれぞれの学校の功績について順位表を出版することが可能となった。これにより、親がよりよい功績を残している学校を選択することを可能にするであろうと考えられていた。 国定カリキュラムはイングランドにおいて公立学校で義務教育を受ける生徒全てに当てはまる(注1)。以下に示すように4つのキーステージ(Key Stage)により成り立っている。 |
キーステージ 1 |
キーステージ 2 |
キーステージ 3 |
キーステージ 4 |
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生徒の年齢 | 5 - 7 | 7 - 11 | 11 - 14 | 14 - 16 | |
学年 | 1, 2 | 3, 4, 5, 6 | 7, 8, 9 | 10, 11 | |
言語(英語) | 基礎科目 | ||||
算数/数学 | |||||
科学 | |||||
デザイン&技術 | 中心科目 | ||||
情報コミュニケーション 技術 |
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歴史 | |||||
地理 | |||||
現代外国語 | |||||
芸術&デザイン | |||||
音楽 | |||||
体育 | |||||
市民教育* *2002年8月より |
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この表を見ると大変伝統的な科目の範囲であることに気づく。しかし国定カリキュラムに示された内容は時によってそれほど伝統的なものではないこともある。その理由は内容が多くの論争と議論を通して到達されたものであり、広いカリキュラムの範囲を取りまぜたもの(政府や国内の伝統的な教育者により好まれたもの)と、技能や態度を育成するためのより深い学習内容や機会(教員や国内の進歩主義的な教育者により好まれたもの)との両面が混ざり合っているためである。 当初は現代外国語と市民教育以外の科目は全てのステージにおいて教えられた。何について教えられるべきか、そしてこれらがどのように評価されるべきかについての大変詳細な記述が出版されていた。多くの教員がこれらに抵抗を示したため1995年にシステムが再考され、教授内容についての詳細とキーステージ4においての必須科目が減らされた。教員はいくつかの分野において自由裁量が与えられたが、7歳、11歳、14歳における国が行うテストはそのまま残された。市民教育は近年追加される科目でキーステージ1と2では、「人と社会についての教育(Personal and Social Education)」の一部として扱われ、キーステージ3と4ではよりきちんとした形で扱われる。学校には生徒たちに何歳の時にキーステージの学習プログラムを教えはじめるかについていくらかの自由裁量が与えられている。 それぞれのキーステージと科目において、国定カリキュラムは2つの部分に分けられる。
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学習プログラム 学習プログラムにはそれぞれのキーステージの各科目において何が教えられるべきかが記載されており、それは学習の計画案を立てる際の基本となる。最も記載が詳細であるのはキーステージ1と2の言語(英語)と算数の部分で、ここでは5歳から11歳までの生徒のための毎日の言語と算数の時間についての提案が詳細に盛り込まれた国定のひな形がある。 達成目標とレベルについての記述 達成目標はそれぞれのキーステージの終りまでに生徒が獲得していることが望まれる知識、技能、理解度を示している。市民教育の場合は例外で達成目標は少しずつ難しくなる8つの段階とその上の例外の段階1つがある。達成目標にはそれぞれのレベルの生徒が特徴的にやってみることができる事柄が記述されている。 キーステージの1、2、3の終りにおいては、これらのレベル記述が生徒の達成について評価する際に使われる。この評価は基礎科目に関する全国テストによって行われる。キーステージ4においては、全国のテストと資格が達成を評価する手段として使われている。
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(注1)英国においての教育はスコットランド、ウェールズ、北アイルランドとそれぞれの地域において委ねられている。これらの国には異なったカリキュラム構造があり、スコットランドと北アイルランドでは内容の記述が少ない。 (注2)より詳しい国定カリキュラムについて情報はhttp://www.nc.uk.net/home.html (注3)イングランドにおけるカリキュラム発展に関する詳細な議論については Ross, A (2000) Curriculum: Construction and Critique. London: Falmer Press.ISBN 0-750-70797-6 を参照。 |
(日本語訳: 山下博美) アリスター・ロス(Alistair Ross) 北ロンドン大学教育学教授(Professor of Education at the University of North London)、教育政策研究所(the Institute of Policy Studies in Education)代表。 |