1.子どもたちの気持ち



(1) 幸せか
 経済的に安定した都市を選んだせいか、どの都市の子も「幸せ」と答えていた。そうした中で、東京の子の幸せ感は低い(図1、表1)。

図1 幸せか  (%)


表1 幸せか−北京の子は「幸せ」  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
とても幸せ 26.348.975.139.942.652.0
わりと幸せ 31.329.318.633.139.026.2
小 計 57.678.293.773.081.678.2
やや幸せ 28.513.203.916.313.915.9
やや不幸せ 09.204.301.305.903.004.4
とても不幸せ 04.704.301.104.801.501.5




(2) 進学期待
 6都市では、いずれも多くの子どもが大学進学を希望している(表5)。

表5 将来の進学期待−どの都市も大学進学  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
中学校まで 04.001.100.703.001.203.9
高校まで 33.702.704.706.612.112.3
普通の大学 44.426.216.142.146.431.9
むずかしい大学 17.970.078.548.340.351.9



2.学級の中の子どもたち



(3) 学校に通う楽しさ
 どの都市の子どもも学校へ通うのは楽しいらしく、「わりと」を含めると、およそ6割以上が楽しいという(図3、表9)。

図3 学校に通う楽しさ  (%)


表9 学校に通う楽しさ−北京は楽しい  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
とても楽しみ 18.835.261.626.525.531.9
わりと楽しみ 36.441.332.732.939.525.9
小   計 55.276.594.359.465.057.8
少し楽しみ 28.610.505.327.025.532.1
あまり楽しみでない 12.009.500.408.206.906.3
ぜんぜん楽しみでない 04.203.500.005.402.603.8




(4) 学級の居心地
 「今の学級でよかったか」で、東京を除くすべての都市のおよそ5割以上の子どもが、「とてもよかった」と思っている(図4、表13)。

図4 今の学級でよかったか  (%)


表13 今の学級でよかったか−東京以外は「とてもよかった」  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
とてもよかった 32.753.367.550.146.751.9
わりとよかった 35.728.118.533.737.419.7
小   計 68.481.486.083.884.171.6
少しよかった 20.911.407.314.114.119.7
あまりよくなかった 07.405.105.700.800.903.7
ぜんぜんよくなかった 03.302.101.001.300.905.0
設問「今の学級のメンバーになれてよかったか」



(5) 学級の雰囲気
 学級が楽しいのは多くの都市に共通しているが、その中で「勉強熱心」なのがソウル、「まとまりがある」が北京、「男女の仲がよい」がミルウォーキーである(図5、表14)。

図5 学級の雰囲気  (%) 「とてもそう思う」割合


表14 学級の雰囲気−ミルウォーキーの学級は楽しい  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
楽しい 52.563.558.7(1)64.6(1)(6)44.0(1)49.9
よく運動する 26.254.1(6)25.9(1)(1)54.2(1)34.649.5
男女の仲がよい (6)11.6(1)30.116.9(1)36.5(1)26.928.0
まとまりがある (6)8.9()34.9(1)56.2(1)21.623.624.1
授業中、よく手をあげる (6)8.4()(1)40.5(1)21.923.120.920.2
よく勉強する (6)5.3()(1)38.7(1)28.620.619.010.9
「とてもそう思う」割合
(1)は6都市間の第1位、(6)は第6位を示す(以下同)




(6) 担任の授業
 東京やソウルは「教科書を使う授業」が多く、ミルウォーキーは「実験や観察」、オークランドは「自由発表」が特徴になる(図6、表15)。

図6 担任の授業  (%) 「とてもそう」の割合


表15 担任の授業−教科書中心はソウル、サンパウロ、東京  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
先生の話を聞く 08.9(30.5)38.107.514.418.0
実験や観察をする 09.6(38.0)22.5*27.614.520.9
教科書を使う授業 *21.7*(55.4)36.820.610.1*37.6
小グループ学習をする 12.1(48.4)20.919.115.015.7
皆が自由に発表する 16.9(52.3)*48.520.2*16.533.9
個別学習をする 05.5(11.0)26.606.513.026.7
「とてもそう」の割合  ソウルのみ4段階尺度、他は5段階
*はその都市内の最大値



3.担任との関係



(7) 担任から知られているか
 ミルウォーキーの子どもは、担任は学校外のことは知らないだろうが、教室内でのことは十分に知っていると感じている。それに対し、ソウルの子は担任は教室内はむろん、放課後のことも知っていると思っている(表17)。

表17 担任から知られているか−ソウルは「知られている」  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
得意な科目名 (6)30.4(1)46.239.5(1)60.9(1)38.937.5
仲よしの友だち 25.2(1)41.2(1)35.2(5)15.9(1)(5)15.9(1)34.0
好きな食べ物 05.4(1)19.6(1)12.007.5(6)4.1()07.5
悩み (6)5.3()(1)23.0(1)21.306.506.213.1
帰宅後の過ごし方 05.121.3(1)21.5(1)(5)4.5()(5)4.5()10.0
好きなテレビ番組 (6)3.7()(1)18.8(1)17.707.305.912.0
平   均 (6)12.5(1)(1)28.4(1)(2)24.5(1)(4)17.1(1)(5)12.6(1)(3)19.0(1)
「よく知っていると思う」割合



(8) 先生からしてもらったこと
 先生に励ましてもらったり、悩みの相談にのってもらっているのはミルウォーキーの子ども、次いで、オークランドの子どもである(表20)。

表20 先生からしてもらったこと−ミルウォーキーは「してもらった」  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
休み時間、遊んでくれた 07.9(6)1.7()06.9(1)8.7()03.502.5
先生からほめられた (6)6.3()12.324.3(1)30.6(1)10.311.2
勉強のわからないところを
個人的に教えてもらった
(6)6.2()28.340.0(1)44.3(1)38.038.7
「がんばったね」と励まされた (6)5.9()17.036.0(1)75.2(1)52.009.3
悩みを聞いてもらった (6)3.0()11.910.9(1)43.3(1)27.318.6
休日、遊びに行った (6)0.6()01.605.5(1)13.8(1)01.802.0
平   均 (6)5.0()(5)12.1(1)(3)20.6(1)(1)36.0(1)(2)22.2(1)(4)13.7(1)
「しょっちゅうある」割合



(9) 担任の家に遊びに行きたい
 「担任の家に遊びに行きたい」と思っているのは北京、次いでソウルである(表21)。

表21 担任の家に遊びに行きたいか−オークランドは「行きたくない」  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
とても行きたい 34.976.3(1)82.2(1)40.6(6)16.3(1)30.3
わりと行きたい 20.012.110.124.414.518.0
少し行きたい 21.905.804.823.629.119.0
あまり行きたくない 12.902.901.306.715.114.2
ぜんぜん行きたくない 10.302.901.604.725.018.5
とても+わりと (4)54.9(1)(2)88.4(1)(1)92.3(1)(3)65.0(1)(6)30.8(1)(5)48.3(1)




(10) 担任のタイプ
 どの都市の教師も、熱心に勉強を教えている(表22)。

表22 担任のタイプ−ソウルの先生は「熱心に教える」  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
えこひいきをしない *(6)32.6*(1)55.451.4(1)59.5(1)49.436.2
熱心に教える (6)28.6(1)*(1)84.6*(1)78.546.231.468.8
教え方がうまい (6)26.8(1)(1)80.4(1)73.0*78.6*62.5*70.0
授業中、冗談を言って笑わせる 26.4(1)35.2(1)33.924.921.7(6)8.4()
子どもから親しまれている 21.246.4(1)63.4(1)21.4(6)17.4(1)29.0
子どもから尊敬されている (6)15.3(1)54.6*(1)82.1*(1)61.444.235.3
休み時間、話し相手になってくれる 11.716.9(1)43.5(1)13.413.1(6)7.3()
平   均 (6)23.2(1)(2)53.4(1)(1)60.8(1)(3)43.6(1)(5)34.2(1)(4)36.4(1)
「とてもそう」の割合
*はその都市内の最大値




(11) 担任でよかった
 ソウルや北京、そしてミルウォーキーやオークランド、サンパウロとも、5割以上が「とてもよかった」と答えている(図10、表23)。

図10 今の担任でよかった  (%)


表23 今の担任でよかった−北京、ソウル、ミルウォーキーの順  (%)
東 京 ソウル 北 京 ミルウォーキー オークランド サンパウロ
とてもよかった (6)35.9(1)69.7(1)84.3(1)63.452.852.4
わりとよかった 30.518.814.223.731.717.5
とても+わりと (6)66.4(1)(2)88.5(1)(1)98.5(1)(3)87.1(1)(4)84.5(1)(5)69.9(1)
少しよかった 22.206.201.209.510.414.7
あまりよくなかった 07.803.200.02.203.609.0
ぜんぜんよくなかった 03.602.100.301.201.506.4




●まとめ

 今回の調査を通して、2つのタイプの教師像が浮かんできた。1つはミルウォーキーやオークランドの教師で、学校の中に活動の場を限定はしているが、一人一人の子どもを励まし、動機づける「カウンセラー型」の教師である。もう1つはソウルや北京の教師で、個別というより集団を通してではあるが、放課後まで子どものことを心配する「保母(父)型」の教師である。そうした中で、東京の教師はミルウォーキーの教師のように個別指導型ではなく、かといって、ソウルのように放課後まで熱心に子どものことを心配する聖職的な「保母(父)型」でもない。そうした中途半端さを感じる。その曖昧さが子どもからの評価の低さを招いた背景であろう。



●テーマ設定

 子どもは教えられる対象とみなされ、学習している子どもの声は明らかにされにくい。そこで、子どもの目を通して、教師をとらえてみたいというのが本調査の狙いである。



●調査対象

 欧米とアジアとで教師の姿が異なると予想されるので、欧米型としてミルウォーキーとオークランド(ニュージーランド)、アジア型としてソウルと北京を調査地域に選んだ。そして、2つの地域以外という意味でサンパウロを調査地域にした。なお、いずれも個人的に知人がおり、調査可能という地域条件を優先させた。
 日本語版の調査票を完成後、調査予定地域に調査用紙を送って意見を求めた。韓国語(ソウル)、中国語(北京)、米語(ミルウォーキー。オークランドは米語版を手直し)、ポルトガル語(サンパウロ)の調査用紙を作り、現地でプリテストを行いながら、それぞれの都市の調査票を確定した。
 準備が終わった都市から調査を始めたので、調査は1995年10月から1996年5月にかけて実施された。なお、調査対象はいずれも小学5年生である。


●調査概要

1.調査地域: 東京、ソウル、北京、ミルウォーキー、オークランド(ニュージーランド)、サンパウロ
2.調査対象: 小学校5年生(11歳の子どもたち)
3.調査時期: 1995年10月〜1996年5月
4.調査方法: 質問紙による自記式調査
5.調査項目: 学校に来るのが楽しいか、学校にいるときはどんな気持ちか、どんな学級か、担任の先生は自分のことをどの程度知っているか、自分は担任の先生のことをどの程度知っているか、先生はどんな授業をするか、担任の先生はどんな先生か、今の担任の先生に受け持ってもらってよかったか、などの点について。
6.サンプル数: 東京(1,969人)、ソウル(747人)、北京(751人)、ミルウォーキー(403人)、オークランド(349人)、サンパウロ(404人)、合計4,623人