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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1997/03/18

人類進化の流れと子ども達
 −自然環境、文明に適応してきた人類〜宇宙へも生活圏拡大−

 子どもの多様性を筆者が強調し、その生物学的基盤まで論じようとするのは、目の前にいるのがどんな子どもであっても、教育現場では優しい目なざしを持ってもらいたいからなのです。子どもの現在からは、後の人生の在り方を予知することは困難であり、次の世代になるとほとんど不可能といえるのではないでしょうか。その上これからの教育のあり方を考えるためにもこの問題を人類進化の流れの中で考える必要があると思うのです。

 そもそも生命の始まりは、45億年もの前に、この宇宙に地球が現れ、そこに存在した原子がお互いに反応し始め、化学進化、分子進化をおこし、生命の基本となる複合分子が出来たのです。そして、40億年前に単細胞のかたちをとり、7億年前にやっと多細胞に進化したのです。

 有性生殖は、5億年前に始まり、多様性の幅を多きくし、進化を加速させ、4億年前に脊椎動物を、そして3億年まえには哺乳動物を進化させたのです。

 哺乳動物が、生殖細胞(卵子・精子)を作る時、うけついだ雄・雌の染色体をランダムにふり分けるばかりか、その一部をキアズマとして切り張り交換までする仕組みは、恐竜の絶滅後6千万年の間に出来上がり、哺乳動物の多様化の原動力になったと言われています。それなくしては、人類は現れなかったのではないでしょうか。

 その流れの中で、哺乳動物のひとつが猿類に進化し、それが人類の原型となる猿人(ホモ・ハビルス)としてアフリカに現れたのが4百万年前のことでした。そして、原人、古代型ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、新人(クロマニオン人)と進化し、われわれ現代人になったのです。

 長い進化の歴史の中では、突然変異が多様性に関与していることも考えなければなりません。即ち、遺伝に関係する物質が、紫外線・X線・化学物質などによって、量的・質的に変化することです。それが大きければ、生命維持は不可能でしょうし、小さくても、生存に支障を来たす場合も勿論ありましょう。

 しかし、逆に、生存に有利な場合もあり、世代を越えて、それが遺伝される場合も有り得たのです。

 アフリカ中央部に現れた祖先は、何かを求めて、いろいろな方向に歩き始めた様です。百万年程前には、現在の中近東に入り、さらにひろがり、アフリカは勿論のこと、中近東・ヨーロッパ・アジアの各地に定住していったのです。そして、われわれの祖先は、多様性に助けられ、子どもを生み育てながら、世代を繰り返し、生き続けてきたのです。

 その過程の中で、まず自然環境に適応することが第一であったに違いありません。それにこそいろいろな手段で現れた多様性が重要な役を果たしたのです。アフリカに住みついた祖先は、強い太陽光線に適応出来る、皮膚色素の少しでも多いものが、逆にヨーロッパでは、弱い光線でも生活出来た色素の少ない人間が生き残ったと考えられるのです。すなわち、自然淘汰・適者生存の結果、いわゆる白色人種がヨーロッパ中心に、黒色人種がアフリカ中心に、その中間としての黄色人種がアジア中心に現れたことになります。

 人間は、自然環境ばかりか、自らが創造した文化・文明にも、広い意味で適応しなければならなかったのではないでしょうか。2百万年前の石器、ネアンデルタール人の埋葬、クロマニオンの洞窟絵画などは文化・文明の始まりと言えますが、それが道具の発達、家族や社会の形成にと発展し、現在の文化・文明に繋がっているのです。勿論、その基盤には、人類の脳、特に大脳前頭葉の発達があります。

 このような進化の流れの中でも、生命の「かたち」の多様性、そのひとつとしての人間という生命体としての多様性、そして子どもの多様性も捉えることが重要なのではないでしょうか。化学進化・分子進化で出来上がった、核酸(遺伝子)で代表される生命の複合分子は、この地球上に現れて以来、自らが生きのびるために、いろいろな生きものの「かたち」をとって来たとも言えるかも知れないのです。

 そのひとつとして現れた人間は、技術を開発し、道具としての機械を発達させ、海も制覇し、地球全体に住みついて、今や極地、深海ばかりでなく、宇宙にまでも生活圏をひろげようとしているのです。ですから21世紀を生きていく子ども達は新しい生き方が求められているのです。

全私学新聞 2月23日号 掲載
 




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