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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1997/07/25

子どもの生活リズムと行動問題

 生き物が持っているリズムはいろいろあるが、遺伝子によって支配されているものが明らかになって久しい。まずショウジョウバエで明らかになり、今ではマウスでも証明されている。したがって、人間だけは別とは言えない。もちろん、いろいろと、より複雑な仕組みが存在することを考えなければならない。

 宇宙に地球が現れて45億年、やがて原始の海ができる。そもそもの初めから、太陽の周りを回ることによる春夏秋冬の四季のリズム、月の引力による潮の干潮のリズム、地球自転による朝昼晩の日照リズム、そんな中で化学進化によって生命の元になる分子が現れ、それが生物進化をたどる。

 すなわち、生命分子から細胞へ、細胞から生物へ、その生物のひとつが魚類、爬虫類、哺乳動物へと、海中から陸上生活へと進化の道をたどり、約500万年前に人が現れ、現代人へと進化する。したがって、地球誕生以来の自然のリズムに適応をして、生命を誕生させ、維持し続けてきたといえよう。

 したがって、子どもの行動問題や心身症と、生活リズム、さらには生体リズムなどとの関連を追及する研究の意味するものは大きい。

 ギャザーリング・ハンティングの時代の我々の祖先が、自然のリズムに合わせて生活していた時にはあまり問題がなかったであろう。しかし、近代化・先進化とともに、人工的なものにより、自然のリズムが乱されてきて、問題が出てきているといえよう。

 我々の生活の中には、太陽の光の他に、電気エネルギーから作った光も存在している。我々の生活のリズムは、自然のリズムから離れて日々が流れている。

 そんな状態が、子どもたちの心と体の健康に影響を与えないわけはない。この特集で、子どもの教育問題を、リズムの立場から捉えられたのは慧眼というべきである。

 考えなければならないのは、生体リズムというものは、単一の遺伝子で決まるものではなく、個人差が大きいことである。したがって、子どもが体の中に持っているリズムのプログラムも、その立場で捉えるべきであって、プログラム自体に問題があるのは例外と考えるべきであろう。しかし、子ども集団の中には、現在の社会の生活リズムに影響を受けている子どもたちが少なくないことだけは明らかである。

 本特集では、現時点での成果がまとめられているが、これが出発点になって、この分野での研究が進み、子どもたちの行動問題へのより良い対応ができるようになることを祈りたい。

「教育と医学」97年7月号(慶應義塾大学出版会)掲載 「特集 子どもの生活リズムとしつけ」に向けた巻頭言として寄せた原稿より
(編集:教育と医学の会 発行:慶応義塾大学出版会)




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