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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1997/12/19

プリクラの流行
−仲間づくりの手段にプリクラ〜人間関係に飢える若者−

 子どもたちの仲間関係づくり行動と生活環境との相互作用をチャイルド・エコロジーの立場からみると、最近、思春期の少女たちの間に、興味ある問題が起こっています。

 いわゆる「プリクラ」こと「プリント・クラブ」です。現在のマルチメディア社会なればこそ現れた、仲間づくりのやり方といえましょう。

 「プリクラ」については、読者ならばどなたもご存知のことと思いますが、話の始まりとして簡単に紹介してみます。それは、アーケードやゲームセンター、最近は駅でもみられるカメラ・ボックスのようなもの。自分ひとりで、あるいは親しい友と2人、3人で、その中にあるカメラに向かってポーズをとったりして、写真を撮るのです。そうすると、その写真が母指大のステッカー16枚のシートに、数分の内にプリントされて出てくるのです。このステッカーを交換して、張り付け用の特別なノートに張り付けて、持ち歩き、見せあったりして、仲間づくりの手段としています。

 「プリクラ」は、今から2年ほど前に、あるゲームデザインの会社が作って市場に出しましたが、想像以上に当たり、1年間という短期間に、あっという間に1万2千台も日本国内に広がり、1日100万シートも印刷されて、若い女性の間で顔写真がお互いに交換され、彼女たちのノートの中に収まっているのです。

 我々が行った調査によると、プリクラを知っていても撮ったことがないという子は約35%、しかし撮ったことのある子は約50%におよぶのです。10枚はもっていると答えた子どもは、約80%、10枚から30枚というのは20%、中には200から300枚という子どももいました。

 どんな人たちとステッカーを交換しているかについて調べてみると、女の子同士で交換すると答えた子は35%、異性の友と交換するのは20%、家族と交換するというほほえましいのも8%もあったのです。先生と交換しているというのは6%でした。まったく新しいプリクラ仲間(友人といえるかどうか不明であるが)を100人以上もつくったという子どもも少なくありませんでした。

 「プリクラ」がどうして楽しいのかを尋ねてみると、友人と交換できるからという理由を挙げていたのが約35%で多く、自分自身の良い写真をつくることができるからが約20%、ステッカーのデザインを楽しむという子も同じ率でいました。ステッカーを集めること自体が楽しみという子も約15%はいたのです。

 コマーシャリズムの権化とでもいってよいゲーム関係者のつくった「プリクラ」が、どうしてこのように思春期の女性の心をとらえたのでしょうか。

 どう考えてみても、「いじめ」問題でも申し上げたように、わが国の子どもたちがさびしいのが原因のように思われます。特に、思春期の特性も関係して、この年齢の女の子は人間関係に飢えているようです。だからこそ、それを求めるために「プリクラ」があっという間に広がったと考えざるを得ません。

 わが国では核家族が多く、その上、子どもの半数はひとりっ子です。親たちは、母親も仕事をもち、乳幼児期の子育ては社会化されていて、保育園などの施設で育てられています。我々の世代に比べれば、親とのふれあいはもちろんのこと、子ども同士のふれあいも、その機会が少なくなってきているのです。

 また、学校は学校で、先生や子どもたち同士のふれあいの機会も少なくなっています。前回の「いじめ」のチャイルド・エコロジーで申し上げたとおりです。

 こんな生態要因によって、子どもたちは、携帯電話・PHS・電子メールばかりでなく、「プリクラ」までも仲間づくりの手段に取り入れたものと思います。

 もちろん、「プリクラ」によって、よりファンシーな自己イメージをつくるというナルシシズムも関係しましょう。思い出のコレクションにもなっているのかもしれません。また、日本にある名刺交換という風習も関係なくはないでしょう。こんな子どもたちが母親になったならば、一体どんな時代になるのでしょうか。

全私学新聞 平成9年10月3日号 掲載




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