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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1998/10/02

<こどもは未来のはじまり、愛は偶然を決める−2>

多様な個性が人間社会をつくる

 前回は、人にはそれぞれ、ほかの人とは違った個性や能力があるという人間の多様性についてお話しました。

 その大きな個性のばらつきをもったこどもが、おとなになって社会を構成し、営んでいくわけです。このばらつきの多様性から、どんな状態がおこっても、必ず生き残る人がいることになります。その為の多様性なのです。また、いろいろな個性をもった人々が、強い者も弱い者もいっしょになって生活しているのが、人間の最大の特長ではないでしょうか。病める者、傷ついている者、また生まれながらに心身の障害のある者も、助けあっていっしょに生きていることも、人間の最大の特長といえるでしょう。

 人間の中に見られる、多彩な個人性の相違のもとになる遺伝子のひとつひとつは、人類の進化とともにできてきたものであり、人類の長い歴史の中で親から子へと連綿としてつながってきたものです。もちろん同じ遺伝子が、まったく関係のない人に存在している可能性もあるのです。

 重要なことは常に新しく組み合わされ、組み変えられる遺伝子の多様性からあらわれた生物学的情報がからみあって、こどもの人間的なすべてが形成され、それぞれがユニークな形質(注1)を示すことです。

 こどもは、それぞれが異なった能力をもつおとなに成長し、父親と母親から受けた、それぞれの先祖から受け継がれたものを育て、つぎの世代に文化を伝承していく重要な使命をもっています。

 文化を創り、伝え、そしてまた次の世代に伝承していく基盤となるのは、すべて生物学的な力なのです。それはDNA(注2)という分子の鎖であり、遺伝子であり、染色体のもっている情報なのです。

恋愛は新しい遺伝子の組み合わせをつくる

 こどもが親からもらう新しい遺伝子の組み合わせは、一般に一組の夫婦によってつくられます。人は恋愛という特殊な感情行動の結果として結婚という形式に至ります。

 恋愛は人間の世界にしか見られない情感の世界です。人はそれを文学として、音楽として、絵画としてそれをあらわしてきたように、生きがいとして、美しいもの、尊いものとして感じ、生命のほのおを燃やします。恋愛はさまざまな困難を乗り越えるインパクトをお互いにあたえます。

 恋愛感情は、高度の精神機能をもっている人間が相手を選ぶための特殊な方法であり、人間の文化の発展のために必要な、つねに新しい遺伝子の組み合わせをこどもにつくるために意義があるともいえるのではないでしょうか。



(注1)形質
もともとは生物の分類の指標となる形質的要素をさし、その意味では特長・標徴ともよばれる。メンデル以来の遺伝学においては、表現型として現れる各種の遺伝的性質を形質という。
(注2)DNA
デオキシリボ核酸のことで、大部分の生物の遺伝子の本体。

このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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