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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/01/22

<母親にもマザーリングを−1>

 「天の川」は英語でいうと“ギャラクシー”。もともとギャラクシーはギリシャ語で「ギャラック」は“お乳”を、「キシー」は“流れ”をあらわすことばです。つまり「乳の川」ということになります。

 ギリシャ神話の火の神ジュピターが、わが子ヘラクレスを抱きあげ、ジュノーの母乳を飲ませようと乳首に近づけたところ、母乳があふれ出て天に流れ、天の川になったといわれています。「射乳反射」で母乳が流れて銀河系の天の川となったというギリシャ神話なのです。

母乳のでるメカニズム

 母乳分泌のメカニズムは、複雑な生理作用の組み合わせです。赤ちゃんが乳頭に吸いつき、おっぱいを飲もうとして口を動かすとき、乳頭は赤ちゃんの口の奥深く吸いこまれ、さくらんぼのようになっています。さくらんぼの実にあたるところが乳頭で、枝にあたるのがひっぱられてのびた乳輪の皮膚なのです。

 乳頭と乳輪は上あごのかたい面と舌にはさまれ、お乳を吸うという口の動きにともなって、強い感覚的な刺激を受けます。この刺激が神経系を走り、脳脊髄の中枢神経系にいたり、乳輪の下にある平滑筋に伝わり、それをゆるめます。いつもは乳管の根もとをしめる作用をしているその平滑筋がゆるむと、乳腺組織で作られた母乳はいつでも外に出られるようになるのです。

母と子の共同作業

 中枢神経から脳にとどいた刺激は、脳下垂体を刺激してホルモンを分泌させます。「オキシトシン」(注1)と「プロラクチン」(注2)という2つのホルモンです。「プロラクチン」は乳腺組織の分泌細胞(注3)にはたらいて母乳をつくらせます。「オキシトシン」は乳腺組織のまわりにある収縮細胞(注3)を収縮させます。これによって乳腺組織に圧力がかかり、母乳が乳頭から外に出されるのです。この母乳分泌のメカニズムを「泌乳反射」といい、収縮力が高ければ母乳が射出される結果になりますので、これを「射乳反射」といいます。ギリシャ神話のジュノーの射乳反射はあまりにも強く、天まで流れて、天の川となったのです。ジュノーは継母だそうですが、愛情深い母親だったのでしょう。

 こうしてみると、母乳分泌のメカニズムは、母親の積極的な育児行動だといえます。そしてそれは、母と子の共同作業のなせるわざなのです。



(注1)オキシトシン
子宮および乳腺などの平滑筋を収縮させるためのホルモン。
(注2)プロラクチン 
乳腺刺激ホルモンで、乳腺の分泌細胞に作用して母乳を産生する作用を有する。黄体刺激ホルモンともいわれる。母性愛を強める作用もあると考えられている。
(注3)乳腺組織の分泌細胞と収縮細胞
乳腺組織の中にあって母乳をつくる細胞を分泌細胞という。乳腺のまわりでオキシトシンに反応して収縮する細胞を収縮細胞という。

このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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