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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/03/05

<育児のために自然はあらゆることをする−2>
 
 母乳とその分泌に関わるホルモンとの関係をさらに詳しくみていくことにしたいと思います。

恵み深き母乳−母乳は必要なだけ出る

 欧米では昔ミルクがなかったころ、孤児の施設や病院の乳児のために「もらい乳」をしました。わが子を母乳で育てている女性が看護婦として施設で働き、乳児に自分の母乳をあたえたのです。いわゆるウエット・ナースです。
 ウエット・ナースの母乳分泌量は多く、乳をあげる乳児の数に比例しているのです。一人よりは二人、二人より三人、三人より四人というように、母乳を飲ませる乳児の数に比例して分泌量が増加したという事実が報告されています。
 あかちゃんがおっぱいを吸うことによって乳頭が刺激されると、血中のプロラクチンの量は数分のうちに2倍から4倍に上昇します。その刺激が強く反復すればするほど、プロラクチンの血中濃度は高くなり、その濃度が維持される時間も長くなります。このホルモンの量と母乳分泌は比例するのです。

母親の精神状態と母乳の関係

 母乳分泌という育児行動は、母親ひとりのものでなく、母と子の共同の営みですが、母親をとりまく環境因子や母親の精神心理状態に影響されてプロラクチンの分泌がとまることがあります。
 脳下垂体からのプロラクチンの分泌は、大脳に支配されています。つまり、母親の精神心理状態は、プロラクチンの分泌を支配し、影響をあたえます。
 「こんな子を産むんではなかった」「育児に自信がない」「だれも助けてくれない」などと悲観的、ネガティブに考えただけで、プロラクチンの分泌はとまってしまうことがあります。その結果母乳の分泌が停止するのです。
 人間の進化の過程においては、母親がわが子に愛情を感じなかったり、育児意識をもてなかったり、母と子の生活の場が不適切な環境であったりしたときは、自然は母親に、育児能力やその資格にかけるとして、プロラクチンの分泌をとめるようにしたのかもしれません。
 きびしい自然環境の中で子を育て、生命をバトンタッチし、立派なあとつぎにするためには、母親はその出発点において、物心ともに満たされていなければならないのでしょう。このことは、現代の社会の状況からみてもしっかり考えていかなければならない問題ではないでしょうか。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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