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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/08/13

<目と目でたしかめる母と子の愛−2>

赤ちゃんのピントは35センチ前後であう

 生まれたばかりのわが子をだく、母親の行動を分析してみますと、だきかかえ、わが子と接触した時点からの時間が、長ければ長いほど、母親はわが子を目の前にだき、目を見つめる時間が長くなるといわれています。もちろん、生後数ヵ月ともなれば、赤ちゃんの澄んだ目は、より複雑な反応をしめすようになり、それにつれて母親の喜びの反応が強いのは、日常目にする現象でもあります。
 生まれたばかりの赤ちゃんの目は、網膜だけは大人なみに発達していて、あるていどの視力はあり、大きな物体の形がわかるものなのです。そして生後数週間になると、急速に発達する神経によって、相当ていどの分別が可能となり、35センチ前後の距離の物体にピントをあわせることが、できるようになるのです。
 多くの母親はそれを知ってか知らないでか、わが子をだき、目をみつめるときに、自然にその距離を保っているようです。また、母親の乳房はわが子をだいて、乳首をふくませたとき、適当な距離を保ちながら、わが子の目をみつめるのに役立つのです。母親は、自然に、わが子の目つきがしめす反応がもっとも強くなるだき方を知っているようなのです。
 完成された眼球では、何かを見ようとするときは、網膜の中でもっとも鋭敏な部分(黄斑部の中心窩)に目標を向けます。これを中心固視とよび、生後2〜4ヵ月のあいだに、それができるようになるのです。また目標にピントを合わせる調節能も発達して、遠くのものをはっきり見れるようになるのです。6ヵ月くらいになりますと、1メートルぐらいの距離の物体の輪郭を、赤ちゃんでもはっきりみることができるようになるものなのです。
 新生児専門の小児科医は、生まれた赤ちゃんの正常や異常、さらには成熟の度合いをいろいろの立場から評価し、障害の早期発見につとめます。とくに反射を中心とする運動神経の発達を神経学的に評価することを重視しています。しかし、最近は目つきとか、母親の語りかけにたいする反応などの、行動や感情的なものもふくめて、評価しようとしているのです。それによって、新生児の異常を見落とすことが少なくなっています。
 目と目のふれあいによって、赤ちゃんは母親の姿を見て反応し、未熟ではあるが、そこに生きる喜びとしての反応をしめします。母親は、それをわが子の目つきに感じ、母と子のきずなを、ますます深めていくのです。視覚は、母と子のきずなを豊かに結び上げるのに、大きな役割を果たしています。

このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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