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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/09/10

<においも母と子のきずなを強くする−2>

わが子のにおいを識別する

 生後5日ころになりますと、母親の母乳分泌機序も発達し、母乳分泌が活発になり、赤ちゃんのほうも、おちちの吸い方をそろそろ体得出来るころなのです。赤ちゃんは、母親の乳ぶさを手でいじること、母親の語りかけをきくこと、母親の目をみつめることのほかに、嗅覚によって母親のにおいをうけとめ、母親をわがものとして感じるようになるものなのです。
 母親のほうもとうぜんのことながら、嗅覚は十分に発達しています。したがって、例外的なばあいをのぞいて、母親はわが子のにおいを識別することができ、それをこころよいもの、いとしいものとして感じるのです。
 「わが子のにおいが変だ、なじめない」といって、生まれたこどもに愛情を感じることができず、育児のできない母親も、まさに例外的ではありますが、存在するといわれています。
 妊娠分娩の経験のない雌犬に、ほかの仔犬をちかづけると、その「におい」をきらって、蹴ったり、土をかけたりしてちかづけないようにするといいます。もしこの犬の嗅覚を、なんらかの処置で麻痺させると、仔犬をしばらくいっしょにおくことによって、この雌犬は母性行動をしめすようになるという研究もあるのです。

母と子はお互いに影響しあう

 実験行動学のこういった実験によると、妊娠分娩した動物の母性行動は、分娩前ではホルモンの支配が強く、分娩後ではホルモン以外の因子が強いとしています。分娩後のホルモン以外の因子としては、肌の接触・声・凝視などの感覚的なものですが、「におい」のはたす役割も大きいのです。
 考えてみますと、母と子のきずなは、いろいろな手段をかいして、お互いに影響しあって形成されるもののようです。母親のにおい(体臭+母乳のにおい)は、わが子の心におそらく刷りこまれて、こどもは母親を母親として認識するのです。そして逆に、こどもの体臭(それは乳くさいものですが)は、母親がそれを意識するしないにかかわらず、母性の確立に寄与しているのです。

このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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