●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧表へ戻る●



小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/11/12

<愛情も栄養となる−2>

おびえた目つきで生活しているこどもたちは育たない

(前回からの続き)
 いったいこれはなにを意味するのでありましょうか。昔から捨て子は育たないといわれてきました。どんなに栄養が十分であっても、母親の愛情に恵まれないこどもは、発育が悪く、病気になったりして育たないのです。
 歴史的にみると、孤児院の多くは小児病棟になり、ある意味で捨て子の医学から出発した小児科学では、これは昔から問題となっている命題だったのです。このドイツの孤児院の物語は、意図してか、意図しないでか、科学的にもきれいな方法を用いて、フィールドで、こどもの成長と世話する人の愛情との関係を、きれいに証明したことになるのです。
 さて、母親の愛情に恵まれないこどもの体重増加が悪いのは、なぜでしょうか。栄養は十分にあたえられているのですから、それをたんぱくに合成し、体の組織の中に組み合わせるのに必要な生体因子、とくにホルモンなどの分泌障害がその基盤に考えられるのです。
 たとえば成長ホルモンはつねに血液の中に分泌されているのでなく、血糖の低下とか眠りにはいったときに、ビュッと脳下垂体(注1)からパルスとして分泌されているものなのです。したがって、こどもがやすらかな生活のリズムがとれるか否かによっても、生体リズムにあわせてホルモンは分泌されているものなのです。
 このように、母親の愛情に恵まれないために、体重が増加せず、身長ののびがとまり、睡眠障害など問題行動をおこしたりしている状態を、デプリベイション・シンドロームとよぶのです。
 院長さんの顔色をうかがいながら、おびえた目つきで生活しているこどもたちは、睡眠のパターンが乱れ、おそらく生体リズムの失調がおこり、成長ホルモンなど必要なホルモン分泌障害がおこるのでしょう。したがって、たとえ十分に栄養をとったとしてもけっして育たないのです。



(注1)脳下垂体
脳下垂体は頭蓋腔の底部で蝶形骨の背面でトルコ鞍の内腔を満たしている内分泌器官の中で最も重要なひとつである。発生学的にも、構造や機能の面からも、異なる2つの部分、すなわち前葉の腺性下垂体 adenohypophysis と脳とつながった後葉の神経性下垂体 neurohypophysis からなる。成長ホルモンは脳下垂体前葉から分泌される。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved