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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/12/10

<人生ではじめての社会行動はうぶ声−2>

強い不快を訴えるときは、大きな強い泣き声

 むかしから、赤ちゃんの泣き声に関心をもった小児科医は少なくありません。中にはスペクトログラフィー(注1)にかけて、泣き声を分析して、その生物学的意義を追求しようとしました。出産時の泣き声・喜びのときの泣き声・痛みのときの泣き声など、赤ちゃんの感情を強く反映して、泣き声にはいろいろな違いがあるものです。
 研究によると、赤ちゃんは強い不快を訴えるときには、大きな明らかな音と早いはげしい息つぎの音で構成された泣き声で泣くといわれています。弱い不快を訴えるときには、比較的弱い音とゆっくりした息つぎの音で構成された泣き声で泣くようです。
 おなかがすいてきたとき、おしめがぬれているとき、それぞれの不快のていどに応じて、赤ちゃんは異なった泣き声をあげるのです。もっとも、強い痛みにたいして、悲鳴に準ずる泣き声をあげ、それは大きな明らかな波の連続でしめされます。

泣き声によるコミュニケーション

 育児の体験をつむにつれ、母親は赤ちゃんの泣き声の伝えようとするインフォメーションを理解することができるようになるといわれています。
 泣き声がおちちを求めているものであるならば、母親はそれがおちちを求めている泣き声であることを、はっきりと意識するしないにかかわらず、母親の乳房への流血量はさっと増加します。サーモグラフィー(注2)(皮膚の温度を調べる方法)でみると、流血量の増加による温度の上昇がはっきりとしめされるのです。
 母親は赤ちゃんの泣き声に反応して、いろいろな行動をとります。だきあげる、乳首をふくませる、語りかける、頭をなでる、ほおずりする、など。それは赤ちゃんの泣き声にたいする母親の自然な対応なのです。赤ちゃんはその対応を皮膚で感じ、耳できき、目でみて、そして母親の体臭をかぎ、やすらぎを得るのです。
 赤ちゃんの泣き声は、人類が進化の過程で学んだコミュニケーションの手だてを、試運転しているといえましょう。かぎられた表現しかない手段でも、母と子のあいだにいきかうコミュニケーションの量は、大きく多様なのです。そして泣き声をかいして、母と子のきずなはますます強められていくのです。



(注1)スペクトログラフィー
音などをブラウン管上に波としてうつし出して検査する方法。
(注2)サーモグラフィー
物体または生体表面の温度分布を図または写真などの像に現わす方法。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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