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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/03/24

<生きていることをたしかめる指しゃぶり−1>

 赤ちゃんの両手は、赤ちゃんが自分で生きていることをたしかめるのに重要な役をはたします。生まれて3〜6週間もたつと、赤ちゃんの手は、吸ったり、眺めたりする対象となるのです。

なにかを考えているように

 赤ちゃんは生まれて1カ月間くらいは手をにぎったままでいますが、やがて手を開き、手足を大きく動かします。赤ちゃんが両手を振り動かしたりしているとき、たまたま片方の手が、顔にぶつかったりして、口に触れようものなら、たちまちにぎったままの手を、少し月齢がすすんで手が開いているならば、親指を、あるいはほかの指を吸いはじめます。そして手が口からずり落ちるまで、チューチューと吸いつづけるのです。
たしかにその行動は、赤ちゃんがたのしんでいるように、それによってなにかを考えてたしかめているようにみえます。
赤ちゃんが指をしゃぶるのは、口でものをたしかめているのです。この時期の赤ちゃんは体のほかの部分で特別な快感を味わうことはできないようです。おとなならばいろいろたくさんあるでしょうが。
赤ちゃんは親指をしゃぶりながら、指というものの存在を知り、指先で口の中をさぐりながら口の中のことを学んでいるのです。そしてその敏感なやわらかいくちびるをかいして、ママの乳くびを吸うときとはちがった感覚をかいして、みずからが生きていることをたしかめ、生きている喜びを味わっているのです。
人間の一生におけるこの時期は口でものをたしかめる時期であって、人間発達にとってきわめて重要な段階なのです。味覚・触覚をかいしての学習にとって重要な体の器官が口であり、触覚さらにこまかい運動の学習にとって重要な器官が指先であることからも、その意義は理解することができるでしょう。

親指にタコをつくって生まれてきた子

もっとも指しゃぶりは、赤ちゃんが生まれてからの行動ではないのです。生まれる前、赤ちゃんが胎児であるときにすでにそれはみられるのです。
スウェーデンのストックホルムの病院で、レナート・ニルソンは胎児の写真を特殊な装置を用いてとり、生命の輝かしい記録をつくりました。
最初の胎動は、受胎後12週間前後からみられ、胎児は反射的に手を動かし、口のちかくまでもっていったりするおしゃぶりに準ずる運動がみられるのです。妊娠も4カ月半になると、まれですが、子宮の中で赤ちゃんがおしゃぶりをする行動がみられるのです。
そしておしゃぶりの度がすぎて、親指にタコをつくって生まれてきた赤ちゃんが報告されています。してみると、赤ちゃんのおしゃぶりは生理的なもので、生得的な行動であると考えられましょう。
小児神経科医やリハビリテーションの専門医は指しゃぶりの意義を高く評価し、脳性マヒのこどもたちに親指の吸いかたを教えるばあいがあります。脳性マヒのこどもたちの頭脳に残されている機能をかいして、口というものの存在をおしえ、その感覚をとおして残されている機能をできるだけ発達させようとする意図からなのです。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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