<生きていることをたしかめる指しゃぶり−2>
静かに天下の情勢をみて
赤ちゃんの指しゃぶり時間は、赤ちゃんの年齢とともに長くなります。不思議なことですが、赤ちゃんが泣く時間と指しゃぶりの時間には逆関係がみられるのです。すなわち、赤ちゃんがしだいに大きくなるにつれて、泣く時間が短くなり、指しゃぶりの時間が増加する傾向がはっきりみられるのです。また泣く子は指しゃぶりが少なく、あまり泣かない子は指しゃぶりが多いのです。 よく泣く赤ちゃんは体の動きも活発であり、外向的であって、求めるものが多いようです。これに反してあまり泣かない赤ちゃんはどちらかというと体の動きも少なく、内向的であって、あまり多くを求めないようです。 指しゃぶりをしながら、その赤ちゃんは静かに天下の情勢をみているのではないでしょうか。
欲求不満の指しゃぶり
赤ちゃんは、心も体も健全な環境で生活し、育っていくとき、行動パターンの増加、社会性の発達、ほかのこどもとの遊びの発達とともに、指しゃぶりは消えていくものなのです。遊びに夢中になって、指などをしゃぶる暇がなくなるのが普通なのです。 したがって、幼児になっても指しゃぶりがとまらないこどもをみるとき、多くの小児科医は、そのこどもの心の中に、なにか欲求不満があるのではなかろうかと、考えるのです。もっとも物しゃぶりをするこどもがいるならば、指しゃぶりのほうがまだましであると考えてはいますが。 赤ちゃんのとき指しゃぶりの多かったこどもは、大きくなっても物しゃぶりをする傾向が消えない場合が多いといわれています。 たしかに、保育園・幼稚園で遊びまわっているこどもの中に、指しゃぶりをしながらポツンとたっているこどもを見うけることがありますが、そういうこどもは指をしゃぶりながら、静かに友だちの遊ぶ姿を見て、いろいろと考えているようです。 あまりに頑固な指しゃぶりが幼児にみられるとき、小児科医はそのこどもの生活環境や、親の育児態度を問題にして、欲求不満の原因をさがすのです。放置すると指にタコができたり、歯ならびが悪くなったりするばあいもあるので、永久歯が出はじめるまでにはなんとか、指しゃぶり、物しゃぶりをやめさせたいと多くの小児科医は考えているのです。
このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。 |
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