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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/06/23

<言葉も育つ−1>

 話し言葉とは、人間と人間がお互いに自分が頭の中で考えていることを音声で表現してコミュニケーションする手段と考えられます。こどもはそれを自然に学びます。
 日本の赤ちゃんのはじめての言葉が日本語なのはとうぜんですが、外国で育てられれば、日本人の赤ちゃんでもそこで話されている外国語を自然に話すようになるのです。しかも、われわれおとなが外国語を学ぶときのように、難しい文法を学んだりして特別に教えられなくても。

言葉の出発点

 赤ちゃんはこの世に生まれ出ると、「オギャー」とうぶ声をあげます。これは出生とともに刺激によって反射的におこった呼吸運動によるもので、言葉とはいえないかも知れません。しかし、うぶ声は呼吸による空気の動きと、声帯の筋肉の緊張度によってつくられるものなので、そのメカニズムからみると声の原型であって、言葉の発達につながります。その上、うぶ声を泣き止めない赤ちゃんは、だっこしたりしてなだめると、泣き止みます。ですから、赤ちゃんは、お産の嵐におどろき、母子分離で泣いているのです。したがって、頭の中で感じているものを表現しているのですから、やはり言葉につながっています。
 このうぶ声とおなじような泣き声も、生後1カ月にもなると意味がはっきりと出てきます。すなわち泣き声は空腹や痛み、そして苦痛を訴えるものとなるのです。同時に赤ちゃんは泣き声にたいする周囲の人の反応から、その泣き声の出し方を学ぶようになります。それは人間のもつ高度精神機能のひとつ、すなわち心という全くかたちのないものを表わす象徴機能(注1)の芽ばえにも関係するのです。
 生後2カ月になると赤ちゃんは泣き声とは別に、いろいろな声を出します。たとえば、「ア、ア」「オ、オ」「クンウン、クンウン」。日本人の赤ちゃんでも、日本語にないような発音もみられるのです。これがいわゆる喃語というものです。人類進化の過程で獲得した、人類の共通語なのでしょうか。
 この喃語は、おっぱいを飲んでお腹がいっぱいのとき、入浴のあとのご機嫌のよいとき、壁の模様を見たりしているとき、ひとりごとのようにはなします。すなわち、楽しい時、うれしい時に出すので、プレジャーサインと呼びます。またお母さんの語りかけも独特のピッチやリズム、そして抑揚があるのでマザーリース(母親語)とよびます。マザーリースとプレジャーサインは次第にやりとりするようになって、赤ちゃんの喃語は発達します。そして、赤ちゃんの喃語はその心によっていろいろなちがいを強くも出すようになるのです。



(注1)象徴機能
ある事物をみたり、聞いたりしたとき、そのものの性質、あるいはひとつの面を引き出して把握して感じる精神心理的な機能で、人間を人間として特徴づけるものです。たとえば、ハトをみて平和を感じることができるのは人間の象徴機能である。類人猿が1本の棒や1個の箱のうちに食物を獲得するための道具性を見出すのも、この象徴機能の現われである。したがって、通常機能といわれるのは、このような象徴機能のある面を示している。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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