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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/07/07

<言葉も育つ−2>

喃語から、文章に

 生後5カ月ころになると、お母さんの語りかけに反応して、赤ちゃんは喃語をくり返すばかりでなく、みずから声を出して、それを聞いてまた喃語を出すようになります。自学自習のはじまりなのです。
 生後半年もすぎると、他人の話し声に注意を払うようになり、それをまねするようになります。いわゆる模倣期であります。表情の模倣のプログラムと同じものが言葉にもあるのです。しかし本当にまねしているかいなかが問題であって、むしろ遺伝的にあらかじめつくられた神経発声のメカニズムを脳の心のプログラムが組み合わさって、まわりでしゃべっている言葉をはりつけて、言葉を引っぱり出しているだけであるという考え方もなくはないようです。
 赤ちゃんも10カ月にちかくなると、いろいろな音声をつなぎあわせて、あたかもお話しているかのような独得な声を出すようになります。いわゆる小鳥のさえずりみたいなもので、「ジアーゴン」とよびます。お誕生ちかくなると、第一発語「ママ」「パパ」「マンマ」など唇を使う言葉をいうようになります。そんなとき名詞・感嘆詞が多いのです。そして、感情の発達とともに言葉が発達してくるのです。
 1歳以後になると、赤ちゃんはつぎつぎと新しい言葉を習得しはじめます。そして、3歳にもなると800語くらいの言葉をマスターしてしまいます。この言葉の数の増加とともに、同時に言葉を組み合わせて文章を学んでいくのです。2歳で約3語つづけた文章を、そして3歳では約4語、5歳で約5語をつなげて文章をつくれるようになるものなのです。

言葉は、引っぱり出される

 しかしながら、よく考えてみると言葉の発達の機序には不明のてんが多いのです。前に申しましたように、現在の言語発達の理論には2つの立場があって、お互いにはりあっているようです。
 第1の言語発達のメカニズムは、母親なりの周囲の人びとから教えられてまねして発達するという立場であり、第2のメカニズムは、赤ちゃんの頭脳の中に、進化の過程で獲得した遺伝子によって支配される言葉のプログラムが、あらかじめ組み込まれていて、外からの刺激によって、リリーズされる、すなわち、外でしゃべっている言葉をはりつけて引っぱり出されるという立場なのです。最近、その遺伝子も見つかったようです。たしかに赤ちゃんはしゃべりはじめますと、言葉はステップをあがるようにどんどんと発達してくるものなのです。
 しかしいったい言葉とはなんでしょうか。ある概念を他の人に伝達するさいに、現実のもののかわりにもちいる記号(シンボル)であると言えます。それには、言葉のほかに文字もあるし、目の見えない人の用いる手話や、耳の聞こえない人の用いる点字もとうぜんのことながらふくまれます。ジェスチャー、絵なども特殊なものとして、コミュニケーションのシンボルなのです。
 赤ちゃんの言葉は人間としての高度の文明にとってなくてはならない象徴機能の発現であって、象徴機能の発達とともに、言語は発達していくものなのです。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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