<言葉は引っぱり出される−1>
言葉が正常に駆使されるようになるには(言語機能の発達)、言語を理解し、表現に必要な言語をえらび、文章を構成する能力が発達しなければなりません。 この言葉の発達を支配する因子は、遺伝因子が中心か、環境因子が中心か、という命題は、前にも申しましたように、現在の言語科学(注1)における最大の問題なのです。ここでいう、遺伝因子が言語発達で中心的な役割をはたすという立場は、人間の言語能力は人類進化の過程で獲得してきたものであり、生得的なものであり、環境因子は脳の中にしまってある言語の能力をつぎつぎに外に引き出すだけの役をはたしているにすぎないとする立場なのです。
教えなくても、こどもはしゃべりはじめる
言葉を話す能力は、読み書きのように「教えられる」ような技術ではなく、立っち、あんよのように、発達するにつれて、到達しうる能力であると考えられるのです。 それでは、なにゆえに子供には、18カ月か28カ月にもなると自然に話しはじめるのでしょうか。その時期に母親がとくに言葉訓練をはじめているわけではなし、また意識的にも、なんら系統的にも教育しているわけではないのです。しかし、言葉は自然に、比較的一定した年齢にきまった順序で発達してくるものなのです。 たしかに、「パパ」さらに「バイバイ」としかいえなかった子供は、いつの間にかこの2つの言葉をつなげて2語文をつくる能力は、中枢的な大脳(注2)の機能であって、けっして運動機能ではありません。 また、喃語しかしゃべらない子供でも、いろいろなアクセントをつけてしゃべることはできますし、喉頭・舌・口唇の微妙なうごきは、手の運動機能を獲得する前に、自然にできるようになるものなのです。
- (注1)言語科学 language science
- 言語を研究する科学体系
- (注2)大脳
- 脳の部分で、その大部分をしめる。卵円形で深い縦溝により左右にわけられている。種々の運動知覚に関する中枢が分布する。
このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。 |
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