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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2001/02/16

<おしおきの病理学−2>

子どもを傷つける親の症候群

 大きい子どもをもっている親ならだれでも、時にはわが子をおもいきりがたたいたりすることがあるでしょう。それが親としてわが子への愛情の表現のひとつなのですから。しかし、すぐにその行為を反省したり後悔したりするものなのです。しかし、何が悪いのかがわからない、小さい子どもの場合が問題なのです。
 いったいなにゆえにこのような悲劇的な状態が、本来は平和で甘い母と子・親と子の関係におこるのでしょうか。もちろん打擲することは母親だけでなく父親の場合もあり、多くは共犯なのです。
 時と場合によって親がわが子に愛のむちを使うのはとうぜんでありましょう。しかしこの場合はあまりにも異常であり、血なまぐさいのです。
 戦争のない平和な現代で、しかも豊かな先進国にこの病気はみられるのは何故でしょうか。工業化、都市化、そして過密化した競争社会の現象ともいえましょう。
十分に栄養をあたえて、しかし過密な状態で飼育されたネズミは、巣をつくることも仔を育てることもできなくなるといわれています。人間の場合にもそれがいえるのではないでしょうか。たとえ宗教とか道徳とかいうある種の社会的なコードが存在し、よりよいほうに向けるよう努力をしても、なんともならない事態もあるのです。いわんや現代のように、それにたいする価値観がうすれてきた社会においては、人間はより動物にちかくなってしまうのではないでしょうか。最近のわが国の新聞紙上にも、バッタード・チャイルド症候群と考えられる子どもたちの事件が殆んど毎日のように報道されるにつけ、小児科医の心は痛むのです。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。




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