恵泉女学園大学人文学部教授 大日向雅美
現在議論されている母性にまつわる2つの主張――崇高で絶対的な善である母性観を問い直そうとする主張と、逆に従来の母性観を科学的根拠から強調しようとする主張――の立場と課題を、大日向氏は指摘する。 |
立教大学文学部教授 山村賢明
「乳幼児は母親の手で育てたほうがいい」「家族は愛情で結ばれているべきだ」という言説は、日本における母性信仰の現れであり、単なる思い込みにすぎない、と山村氏は指摘する。そのような母性文化が連綿と続く限り、女性の自己概念の中で「母親」が大きな部分を占めることは言うまでもない。「つまり女性は、自己を母親として日常的に意識し、自己の行動を母親という視点から組織化することになり、子どもに対してだけではなく、夫に対して、さらには男性一般に対しても母親的に振る舞うこととなる」。男性優位社会において男性は女性に対して優越者として振る舞う一方、わがままや横暴を母親にぶつける子どもにもなる。「しかし、ここで何より重要な点は、日本の母の文化のなかで、弱者としての女性が母たることによって、強者であっても子ども的である男性に対して、精神的・心理的に優位に立つことが可能になるということである」。つまり、「母はその社会構造における低い地位を、文化における高い価値づけによって埋め合わせ、またそれに自ら充足感を見い出し続けてきたのだ」。 |
日本医科大学産婦人科助教授 進 純郎・
日本医科大学産婦人科主任教授 荒木 勤
受精時には50ミクロンほどの大きさしかない受精卵が、出生時には1万倍もの大きさの胎児としてわれわれの世界に現れる。それには神秘とも言うべき何通りもの成長のプロセスが含まれている。進・荒木両氏は、受精現象は「過酷なサバイバルレース」であり、そこで芽生えたヒトの始まりは「友情と愛に満ちたドラマ」のようだ、と言う。 |
大阪大学人間科学部教授 糸魚川直祐
糸魚川氏は、人間を含む動物の母子関係は、母が子を育てる関係であると同時に、母が子の独り立ちに役立つ、社会的関係を含んだ母と子の関係だと言う。人間以外のさまざまな動物には、われわれが持つ母子関係のイメージとは異なる関係がよく見られることを氏は示していく。 |
お茶の水女子大学生活科学部助教授 牧野カツコ
「働く女性の増加」は、世間でいわれているほど増加していない、特にフルタイムの雇用労働者として仕事を続ける、いわゆるキャリアママは、現実にはまだ少数だ、と牧野氏は言う。3歳以下の子どもがいるフルタイム就労の母親は約12%で、パートタイム、農業従事者を含めても母親全体の3割しか仕事を持っておらず、実際には、子どもが生まれるといったん退職して、子育てが終わり再就職をするという「M字型」の就労構造が依然として続いている。それを裏づけるように、当事者である女性が最も望ましいと考える就労形態もM字型で、仕事を続けるキャリアママを望む女性は全体の14%ほどしかいないという調査結果もある。こうした女性側の意識の要因には、日本の労働条件の悪さだけでなく、母親の就労を非難する「母性神話」の存在を氏は指摘する。 |