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第2回幼児の生活アンケート報告書
〜1歳6か月〜6歳(就学前)の幼児を持つ母親を対象に〜

要約
お茶の水女子大学生活科学部教授  無藤 隆

 本調査は、3つの特徴を持っている。第1に、日本の乳幼児の生活全体を概観するものとして、現在最も信頼できるものであることである。第2に、時代の変化を知るために、ほぼ同様の調査を、1995年に続いて行ったことである。5年間の比較が可能となる。第3に、全国の状況を知るために、首都圏の標本(前回と同様)とともに、富山市・大分市からも調査対象を得たことである。さらに今回、生活状況全体とともに、親の育児ストレスを知るために、それに関連した項目を加えている。
 以下、5年間の変化を検討しつつ、現在の全体的な子どもの生活実態及び子育て状況について、要点をまとめる。


1.5年間の変化から
 その傾向を4つの面からとらえてみたい。「幼児の大人化」「情報化」という時代の趨勢に沿った部分がさらに拡大している。それに対して、「体験化」と「脱受験化」というこれまで言われてきた趨勢とは逆の動きもわずかではあるが見られる。

1)大人化の動き
 何より、睡眠時間のパターンがますますおとなの形に近づいた。普段の日について、全体に遅く寝る子どもが増えた。10時以降に寝る子どもが特に多くなってきている。朝は特に遅くなっておらず、むしろやや早まっているかもしれないので、全体として普段の日は寝不足になってきているのかもしれない。それを土日の休みに補っているのであろう。保育園児や未就園児は昼寝によって補っているのかもしれない。夕ご飯も同様に遅くなってきている。特に保育園児や未就園児にその傾向が強い。
 園で過ごす時間も長くなってきており、幼稚園・保育園ともに従来よりも長い時間預かるように変わってきている。これもまた、家庭外での施設に頼るという小学生から会社員までの特徴が下がってきているとも言える。
 おそらく大人の同様の生活スタイルに子どもが合わせる形になっているのであろう。

2)情報化の動き
 情報機器の利用率がさらに上がってきている。テレビ視聴はそれほど変化は見られない。だが、ビデオの利用は増加している。特に低年齢で毎日見ている子どもが多い。テレビとビデオを組み合わせて視聴するという傾向がはっきりしてきた。家にあるものでは、パソコンとCDが増えている。幼児が使っているかどうかではまだ増加にまでは至っていないが。遊びのうち、ミニカー・プラモデルなどの遊びが増えている。

3)体験化の動き
 誰とどこで遊ぶのかを見てみる。よくするようになった遊びに、石ころや木の枝など自然のものを使った遊びが含まれている。公園の遊具を使った遊びは以前からかなり高い。近所の空き地・公園での遊びも増えている。学校等の運動場も増えている。もっとも多いのは自宅であり、しかも自宅での遊びも増えている。友だちとの遊びは減り気味である。
 親が子どもを遊ばせるスタイルが多く、しかも室内遊びが年齢とともに上がっていく傾向は変わらないどころか増えつつあるが、多少外で自然のものを使って遊ぶとか、広い安全な場所で遊ぶといった機会や努力も増えているのかもしれない。

4)脱受験化の動き
 必ずしも早期の受験勉強の趨勢が進行しているのではない。日本の社会が不景気であることが原因となっている可能性もあるが、その中でも特に、受験関係の支出が下がっているのが特徴的である。習い事について、スイミングスクールなどとともに、受験塾が減少した。家にあるもののうち、ワークが減少した。もっとも、通信教育は増えている。知的早期教育への関心が下がったというよりも、値段の安いものやすぐに受験をするためというのではない形のものに移行しているのかもしれない。
 ただ、親の子どもへの進学期待が下がってきており、これは特に高校卒業の母親で著しい。不景気のためか、あるいは学歴信仰が崩れてきたためであろうか。少なくとも、「お受験」と揶揄される状況は決して多数のものではない。


2.子育て状況の現状
 今回、親の子育て状況について詳しくたずねた。そこから見えてくるものを整理したい。

1)親としての満足
 乳幼児を育てている親(ほとんどが母親)は、一部の議論にもかかわらず、その子育てについて充実し満足している。子どもの成長についてとても満足している親が多い上に、その率は増加している。生活について、とても満足している割合も増加している。ほとんどの母親が子どもをかわいいと思っている。特に、子どもが小さいうちは子育てが楽しく、幸せなことだと思っている。
 育児に伴うストレスがないわけではない。6割程度が子どもをわずらわしく感じ、子どもに八つ当たりしたくなることがあると答えている。子どもを育てる上でがまんばかりしているとか、どうしたらよいかわからなくなることがある親も、特に低年齢児を持つ親では少なくない。だが、大多数というわけではないし、時にあるという答えが大部分である。

2)家庭人として個人として生きること
 家庭について、父親中心とする答えが減り、母親中心とする答えが増えた。これは父親の不在を意味するというよりも、父親と母親の対等の関係を反映していると見た方がよいのではないか。父親の子どもと遊ぶ時間は増えている。建前として父親を主とする発想が減りつつあるのであろう。
 父親の育児家事へのかかわりの全容は、今回の調査から新たに加えた項目なので5年間の変化はわからないが、現状では家事への参加は低く、育児への参加は増えつつあると推定できる。父親は何より母親に対して精神的サポートを行う。育児については、しつけや遊びでかかわる。
 なお、夫婦本位の家族が減り、子ども本位の家族が増えている。母親の発言権が増えたとしても、それは子どもが乳幼児の間は少なくとも子ども中心の家族のあり方を受けているのであろう。
 専業主婦であっても、将来、子どもが手を離れたら働きたいと思い、個人としてやってみたいことを始めたいと願っている率も増えている。仕事は子どもが大きくなったら始めると考える母親が最も多く7割に及び、しかもその率は変わっていない。乳幼児期は家庭で子育てをし、子どもが小学生以降になったら働きたいと思う母親が多いのである。

3)専業主婦と共働き主婦の対比
 母親が専業主婦であると、育児ストレスがフルタイムの母親よりも高い。育児に対する肯定的な印象もフルタイムの方が高い。父親のかかわりが、母親がフルタイムの場合に、専業主婦やパートタイムと比べて高いので、1つにはその影響かもしれない。母親の育児不安は、父親の精神的サポート、育児参加、家事参加が高いと、専業主婦・フルタイムを問わず、下がる傾向がある。
 また、おそらくフルタイムで働く母親は、かなり強い欲求に基づいて働いているのであろうし、そこでの満足感も強いだろう。比較的高度な技量を要する仕事でもあるかもしれない。さらに、子どもを保育園に預けることで、育児について保育園の保育者に相談でき、分担出来ることも気を楽に出来るだろう。
 なお、ここでたずねているストレス・不安は心理的で意識的なものであることに注意がいる。ストレスを、肩こりなどの心身的なものについてたずねれば、フルタイムで働く母親は自分の仕事とともに、育児・家事の相当部分を引き受けているのだから、かなり高い可能性がある。

4)子どもを預けたいか
 現在、幼稚園の預かり保育やベビーシッターサービス等、子どもを預ける場や機会が拡大しつつある。その現状と要望についてたずねた。
 実際に預けているのも、できれば預けたいのも、買い物、病院・PTA、などが最も高い。次いで、友だちと会う、夫婦で外出する、気分転換などである。生活上必要なことが優先され、次いで、個人としてあるいは夫婦としての希望が出てくる。どちらも無視できない高さである。
 預け先は、父親・祖父母などの家族・親族が圧倒的に多い。なるべく子どもが幼稚園・保育園に行っている間に用を済ませる傾向が強い。現状としては、家族頼りであると言える。
 育児の相談は当然ながら、父親が最も高いのだが、それ以外では、友だち・母親が高く、次いで、きょうだい・近所の人・医者などである。その次に、幼稚園・保育園などがくる。保育施設や保健所などは知り合いの人たちよりは低いが、無視できない率である。幼稚園・保育園は今度、相談したい先としても、上位に上がってくる。未就園児の母親が幼稚園・保育園をかなりあげているのは意味があろう。その開放が未就園児とその親に拡大されることとが望まれる。
 なお、保育先の幼稚園・保育園に対する注文を見ると、集団生活、友だちづきあいなどが大きい。社会性の発達への期待が大きいことがわかる。次いで、預かりや相談、親同士の交流の支えなどがくる。地域の子育てセンターとしての幼稚園・保育園への高い期待が感じられる。



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