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2月
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〜子どもの自立、その旅立ち(6/6)〜

<今月の本>ルース・エインズワース作 『ふゆのものがたり』



 そのような複雑な子どもの心理と親の状況がさりげないことばで描かれていることに、私は目をみはりました。何不自由のない、子どものままでいられるというおとぎ話ような毎日のなかで、やがてダークは毎晩、ふるさとの家の夢を見ます。父さん母さんが恋しくなり、帰りたいと思う気持ちを抑えきれなくなります。いうまでもなく、ダークがそれまで、どれほど深い両親の愛に育まれてきたかということでしょう。

 異次元に住むこの友だちはダークを失いたくない一心で、氷でつくった不思議な鏡をダークに見せます。そこには両親に愛されている赤ん坊の姿が映し出されます。妹の誕生で両親は「もうきみのことなんか忘れているよ」と友だちはいいます。ダークは泣いて悲しみますが、その氷の鏡は、ダークの帰宅を信じて待っている両親の姿をも映し出して見せるのです。ダークは両親の何があっても変わらぬ愛を確信し、家に帰る決心をします。

 この物語のすばらしさは、それでもダークと友だちの友情はこわれないことです。ダークは自分の生きる場所を再確認し、友だちは野性の自由な行き方を貫きます。それでなおふたりは互いに縛りつけることなく、強い友情で結ばれ、親友であり続けようとします。
 しぶしぶとはいえダークを家に送り届けて戻っていく友に、ダークはいいます。

 「君は、ぼくの親友なんだよ。またきてくれるかい?」
 「たぶんね。わからないけど・・・・・・。さようなら、ダーク」
 物語の終りに、作者は、たくましくやさしい兄となったダークの腕のなかで笑う赤ん坊の姿も、あの氷の鏡に映ったことでしょう、と結んでいます。

 子どもが旅立つことの必然と、旅という人生のなかで、家族や親友の存在というものが子どもにとって、人間にとって、どれほど大切で重たいものか、それらの愛こそがいかに人を支えているか、このあたりまえのことを改めて知らされた気がします。

 1999年に出版されたこの物語を、同じ一つの屋根の下に住んでいるうちに、娘や息子と楽しむことができなかったことを、私はちょっぴり、残念に思います。
 (恐らく、そのようなすばらしい時間は、私には二度と訪れないのです。)


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