ドナルド・ホール文/バーバラ・クーニー絵
『にぐるま ひいて』(もき かずこ訳/ほるぷ出版)
親が精一杯生きているのと同じように、子どもも精一杯生きています。今月のエッセイで「子どもと共に生きること」と書きましたが、それは、互いに支え合い、響き合いながら、生きていくことを意味します。
「10月 とうさんは にぐるまに うしをつないだ。」この物語は両親と娘と息子の一家4人が一年かけて育てたり、作ったりしたものを町まで売りに行くところから始まります。とうさんは最後には、別れをおしみつつも手塩にかけて育てた牛まで売ってしまいます(この絵本を読んでもらった3歳の男の子が、「牛も?」と驚いたそうです)。
そうして、生活に必要な物と材料、それに少しのお土産を買って家に戻り、また第一歩から始めるのです。冬には家族がそれぞれに家の中でできる手作業をし、春には、これも家族総出で農作業や、羊の毛を刈り取ったりします。
そのようなたゆみない暮らしの持続を、豊かでかぐわしい自然の中に描いていきます。日本語版の冒頭の献辞にある「人びとの生活と自然のために」ということばそのままに、19世紀初頭のアメリカのある家族の姿を、クーニーの美しい絵で静かに展開します。
ドナルド・ホールは自作の詩を朗読しながら旅する詩人として知られるようです。彼のことばによると、このお話は従兄弟から聞いたもので、その従兄弟は幼い日にある老人から、その老人も子どものころ大変なお年寄りに聞いたそうです。語り継がれた伝統のすばらしさと、そのようにして人々が生きていたことへの讃歌を、彼もまた(そしてクーニーも)、次の世代に伝えたかったのでしょう。
いうまでもなく、このような日常をそのままに過ごすことは、少なくとも現代の日本では、ほとんど不可能に近いですし、また、その形がすべてではないでしょう。しかし、そこから、その心として、私たちが見落としている貴重なものを、メッセージとして受け止めることができると思います。
この絵本は、1980年にカルデコット賞を受けています。同年、日本で出版されました。
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