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新シリーズ
授業を創る(1)

転換期の校内研究

 教育社会学者・苅谷剛彦さんからバトンを受け継いで、今月号からは学校心理学・発達心理学の立場から、学校にまつわる問題を考えていきたいと思います。

 今、中学校では「総合的な学習の時間」(以下「総合的学習」)の移行措置の時間をどのようにして捻出するのか、つまり「どの教科から時間を供出するのか、だれのところから、あるいはどのように…」といったことで、各学校が頭を悩ませながら取り組み始めているところだと思います。

 出口のところでは高校入試を控えて「『総合的学習』にどのように取り組めるか」、また入り口のところでは「小学校でどの程度探究的な学習をしてきたのか」といった疑問も出てくるでしょう。しかも、中学校へは1校ではなく複数の小学校から子どもたちが入学してきますから、「今以上に多様な学び方をしてきた子どもたちを、さらに中学校で発達に応じて育んでいく『総合的学習』はどのようなものになるのか」といった点で、さまざまな課題を抱え、模索の段階にあると思います。

 しかし、「総合的学習」や選択教科学習のあり方に伴うこうした模索が、校内研究を変えていく一つの契機になるとも考えられるでしょう。

 特に中学校では、「教科の枠を超えて、先生同士が専門性を相互に高め合える交流がいかにして可能か」という点は、長年の課題であるように思います。校内研究のスタイルも、学校全体のテーマは教科部会単位の実施でとどまることも多く、学年の“島”を超えることはまず難しかったのではないでしょうか。しかし、「3年間で学び手としての生徒を育てあげる」という視点に立つならば、教科の枠にとどまらない交流と模索が、生徒にも先生方にもこれまで以上に必要なのです。

 校内の分業体制が生徒指導の問題に対処するためだけのものになってはいないでしょうか。根にある課題としての、思春期という自分探しの時期に適した学びが必要であり、それを通して生徒を育むあり方の追究が協働でなされていかねば、学校は変わり得ないでしょう。

 校内研究も、「指導案の検討―1時間単位の授業公開―検討」という流れに沿うかたちのものが大半だったと思われます。実際にはこのスタイルは、1960年代からの授業の行動科学的研究が盛んになってから強められてきた傾向です。しかしこれからは、「学習材と学習環境を協働してデザインする―生徒の学びをあるスパンで探究する―その省察から次の学習環境をデザインしていく」かたちで実践を語り合い、それを通して協働する校内研究へとスタイルを変えていく必要があるでしょう。

 デザインとプランは違います。デザインとは計画通りにすることではなく、手を加えてしつらえていくこと、例えば洋服のデザインのようにさまざまな要因の絡み合いのなかで意をこらして一つのものを具現化していく思考なのです。

 教師の力量を「高める」ことを名目にした研修は、現在のように教員の平均年齢が40歳を超えた局面ではふさわしくありません。結果として力量が「高まる」協働探究型の授業研究と研修が求められるのではないでしょうか。これは新しいことではなく、もちろんすでに行っている学校もたくさんあると思います。しかし、従来の研修のスタイルを意識して変えることも必要でしょう。

 ある中学校では、その時間授業がない教員が2人いれば、教科・学年を超えてその人がほかの人の授業を見にいくかたちでの研修を始めたとうかがいました。最小単位3人の検討スタイルです。固定メンバーによる大人数の部会だけではなく、柔軟に動くことのできる教員同士が短時間少人数で行い、その代わり頻度を高く、しかも相互に交流するというこのようなスタイルも、校内研究を活性化できると考えられます。

 一方で、全員で一つの「総合的学習」のテーマに関して授業をおのおのデザインし、それを検討し合った学校もあります。研究授業をする人に任せっぱなしではないのです。「総合的学習」によって教科が軽視されるのではなく、時間数が減った分、教科の授業方法もこれを機に改善ができるようにしたいものです。「総合的学習」を通して、さまざまな教科の専門性を持った先生同士が交流していくことができるのではないでしょうか。校内研究はこれからの学校づくりの核だと思いますが、いかがでしょうか。ご意見をお待ちしております。

【あきた・きよみ】1957年大阪府生まれ。立教大学文学部助教授を経て現職に。専門は学校心理学・発達心理学。教師教育についても深く研究している。著書は『日本の教師文化』(東京大学出版会、共著)、『教室という場所』(国土社、共著)など。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第252号 2000年(平成12年)4月1日 掲載



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