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シリーズ
授業を創る(3)

実践を語る時の作法
アクションリサーチのすすめ2

 先月は、実践研究としての「アクションリサーチ」の過程やポイント、また、これまでの「研究」イメージを変えていく必要性などについて述べました。今回は実践を振り返る際の話し合い、特に、協働しながら検討する時の会話に焦点を当ててみたいと思います。実際、学校の中に入ってみて、学校規模や校長・教頭・主任のリーダーシップ、日頃の交流によって、実践にかかわる話し合いのあり方が実に多様であることを常々感じています。協働しながら検討する際に気をつけたいのはどのような点なのでしょうか。

 先日私は、アメリカで「教師教育」の研究に携わっている方に会い、協働して研究を行い優れた実践をつくり上げる日本のシステムが、高い評価を得ていることを知りました。アメリカの初等・中等教育では、伝統的に教師の個別分業体制が確立しています。しかし最近は、教師の協働や同僚性(教師間の関係性)の重要性が唱えられるようになりました。アメリカの体制(スクールサイコロジストなども含めて、生徒指導や各教科の授業を分業する)でも協働が不可欠なものになってきているからです。

 この協働を成り立たせるには、実践を語ることや、それを深めるための議論が必要です。しかし、教師個人の判断や力量を重視してきた文化では、相互に語り合う言葉を共有することが難しい、という話を聞きます。

 明治時代から校内研修の伝統を持つ日本では、そういった悩みはあまりありません。しかし、アメリカとはまた違った問題を抱えているようです。つまり、職員会議や校内研究などでは、出席者が足並みをそろえて同調することが多く、本音を語るのが難しい面が多々あるように思われます。特に学校規模が大きくなればなるほど、実践を深め、検討していく話し合いを学校全体で持つことが難しくなる傾向にあります。無難で当たり障りのないことを言って、丸く収めようとする雰囲気が出てきてしまうのです。その原因は、言い出した本人に仕事が多く回ってきたり、風当たりが強くなるというシステムにあり、それでは皆、口をつぐんでしまうのも無理はありません。けれども、それでは新たな学びや研究は生まれませんし、実践に対する省察は十分に深まらなくなってしまいます。そこで、教育実践を振り返り議論する時には次のような作法を守ってはいかがでしょうか。

 第1に、場に働く力を考え、その関係を組み替えるように試みることです。この、システムの変革こそが「アクションリサーチ」の手法なのです。例えば、生徒の実態や学習状況について、何か問題を感じたとします。その際の先生方の話を聞いたり、文章を読んだりすると、「○○力が足りない」と、教師や生徒個人のなんらかの能力に原因を求める語り方をする先生がいらっしゃいます。しかし、教師や生徒の個人的能力に帰するのではなく、その場で起こるさまざまな関係や力に目を向けて語ることが、議論を発展させるのに役立つのです。具体的には、「○○に興味を示さない、いまひとつ盛り上がりに欠ける」といった状況記述の語りです。新たな実践の創造は、学習環境と教師・生徒との関係性をデザインし、改善することから生まれてきます。ですから、解決策のみを急いで求めるのではなく、事態をできるだけ異なる角度から解釈することが必要になります。

 第2に、「○○なのに」という語り口を控えることです。「先生が何度も注意しているのにきかない」というように、「○○したのに…だ」という口調では、…は必ず否定的内容になります。「○○のおかげで、…だから」という中立、肯定的発想で生徒の学習の軌跡を語りたいものです。相田みつをさんが「『のに』がでるとぐちになる」と著書『にんげんだもの』(文化出版局)で書かれていますが、語り口を転換することにより、授業の見方が変わるのだと思います。

 第3に、抽象的議論や理屈でなく、事実に立ち戻って話をすることです。直感や体で感じた印象のもとが、どこにあったかを事実のなかから探っていくことが、本音での会話を促します。

 そして第4には、学習の状況を極力目に見える形にして議論してみることです。問題や印象を書くKJ法やカード構造化法などの技法や、ビデオ、でき上がった作品、実践記録などを使うのが有効でしょう。また、実践者と実践、意見を言う人とその意見の内容を分けて論じることにより、話し合いもしやすくなります。そのためには、紙に書くという作業をしてから話すのもよいでしょう。

 いつもあまり語り口を自覚せずに話し合いをされている方は、時には皆がどんな語り口で実践を語っているかに、目を向けてみてください。また違う見方が出てくると思います。

【あきた・きよみ】1957年大阪府生まれ。立教大学文学部教授を経て現職に。専門は学校心理学・発達心理学。教師教育についても深く研究している。著書は『日本の教師文化』(東京大学出版会、共著)、『教室という場所』(国土社、共著)など。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第254号 2000年(平成12年)6月1日 掲載



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