●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧へ戻る●

シリーズ
授業を創る(8)

読書環境としての
学校図書館と
10分間読書

 今年は「子ども読書年」。全国6か所での読書活動推進大会をはじめ、各地で読書年にちなんだ催しも行われてきています。「子ども読書年」推進会議を中心に、読書環境の整備が考えられ、「学校図書館の充実」や「朝の10分間読書運動の発展・運営」が中長期構築計画事業のなかに入れられています。

 本を読まない中・高校生の増加や、本を「読む子」と「読まない子」の二分化が言われて久しくなりました。しかし、「総合的な学習の時間」(以下、「総合的学習」)における調べ学習や情報教育での図書館の活用、朝の読書の導入による図書館利用などのように、学校の中でこれまで大半の生徒に見向きもされなかったり、必要な時以外鍵がかけられていたりした学校図書館や、学級の書棚が変わってきています。

 「読書」というと、「一人でするものであり、静的なもの」というイメージがありますが、本はメディアの一つ。メディアには“媒介する、仲立ちするもの”という意味があります。テキストとしての世界だけではなく、その本が対象として描き出した実際の世界や、そこに生きる人々やモノ、事と出合う契機を提供し、また、そこから新たな他者との出会いや気づかなかった自分との出会いを保障してくれるのです。

 例えば、「総合的学習」で主題への興味・関心を喚起するのに使用したり、課題を探究するのに本で調べたり、また体験を振り返り、認識として定着させていくためにも使われているのです。ジョン・デューイは、学校図書館を「直接経験と間接経験を結ぶ場」として学校の中心に位置づける必要性を説きました。そして今、学校図書館には、本があるだけではなく学びを支える人がいる、学習センターとしての機能が期待されています。

 しかし、それが学校図書館の表の機能であれば、裏の機能は、保健室のように病気などの口実がなくても一人でゆっくりしたり、ちょっと居眠りできる、他者の多くのまなざしにさらされず、仲間でゆっくりいられる場所でもあるのです。また、図書館ばかりではなく、心の教育相談室に本をたくさん準備することで、多くを語らない子どもの心境を、彼らの読む本の傾向から読み取ったり、交換読書をすることで交流を深める試みをされている先生もいらっしゃいます。

 空間のみならず、本と出合う時間の保障は大きな意味を持ちます。朝の10分間読書に取り組んでいる学校は、年々増え続け、2000年には4000校以上へと、広がりをみせています。(「朝の読書推進協議会」)“朝の10分間”という時間を保障することで、朝の授業開始時のようすや生徒たちの本への関心に変化が生まれ、自分の心の言葉を持つことによって生徒による暴力が減少したことなども報告されています。朝の10分間読書導入をめぐる学校のあり方を見聞きしていると、各学校の意識や実態が見えてきます。読書が、教科を超えてどの先生にも取り組みやすいものであることや、10分という時間ならば捻出が比較的可能であることが拡大を支える要因でしょう。しかし、「静かになる」「遅刻者が減る」といった、短期の目に見える効果だけを期待し、マニュアルを読んでともかく行うだけでは、全校一斉での朝の読書は長続きしないようです。開始のための準備としての教員間の意思統一や、継続のための努力が必要不可欠です。それが行われないと、せっかく始めても朝自習へと置き換わっていったり、次第に期間限定、日数限定と規模が縮小し、消滅する学校もあると聞きます。

 「朝の10分間読書を『総合的学習』やその一部に充てられないか」という意見も一部の中学校で出ていますが、皆さんはどのように考えますか。「まったく別の主旨なのだから認められない」という意見から、「その学校の生徒がいちばん必要としているもの、生徒の資質として育てたいものを育てるのが総合的学習であり、よいのではないか」「朝の10分だけではなく、別の時間も設けてその時間との接合を図ればよいのではないか」という意見もあり、実は教育委員会の見解も今のところ各地域によって微妙に違うようです。私自身は、こうした議論を契機にして、その学校独自の「総合的学習」や読書環境が生まれることも期待したいと思っています。

 ただし、「総合的学習」の基本は、個別学習だけではなく協同的な学習や、探究・表現活動をその過程の一部に含んでいくことで意味あるものとなることは、忘れてはならないでしょう。

【あきた・きよみ】1957年大阪府生まれ。立教大学文学部教授を経て現職に。専門は学校心理学・発達心理学。教師教育についても深く研究している。著書は『日本の教師文化』(東京大学出版会、共著)、『教室という場所』(国土社、共著)など。



for Teachersへ
先生のフォーラム


フォーラムへの参加には、CRNメンバーサイトの利用者登録が必要です。
 ・CRNメンバーサイト利用者登録をお済みの方はこちら
 ・CRNメンバーサイト利用者登録をお済みでない方はこちら


株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第259号 2000年(平成12年)12月1日 掲載



Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved.