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シリーズ
授業を創る(10)

授業検討を意味ある場に
するために

 このシリーズ「授業を創る」も今回で終了となります。今年度も1年間、いろいろな小・中学校へ校内研究や公開研究会のために伺いました。また、自分でも授業や授業検討会の会話分析の研究を行ってまいりました。最後に、その感想を書いてシリーズを終えたいと思います。

 第1に感じたのは、先生方が校内研究に熱心な学校は、日々の実践をとらえていくための独自のキーワードや教育理念を「学校として」持っているということです。例えば「対話」「意味ある学び」「つながる」「伝えあい」などです。その言葉は各学校によって違いますが、それをキーワードにしながらそれぞれの実践を省察し語りあう場、実践を通してその言葉の内実を理解し深めていく場ができているのです。

 各学校が学校として研究主題を持っていることは多いと思います。しかし、そのなかに「自分たちの授業を振り返るのに主題自体を使用している学校」と「主題はあるがそれがいわばお飾りのようになってしまっている学校」があるという点で大きな違いが出てきます。理念的な言葉は、実践を探究する一つのきっかけを与えてくれます。先生たちがそれを共有できている学校では、授業検討の会話は深まっていくのです。

 第2に、研究授業の準備のための指導案検討会を行う学年団や教科部会で、授業方法をあまり練り上げすぎないほうがよいということです。なぜなら、その授業者自身の一貫した意図によるものではなく、無難だがどこか借り物になりやすくなる危険が出てくるからです。むしろ、指導案検討会では指導案の細かな点を検討するよりも、取り扱う教材、素材そのものについて先生方がさまざまな解釈や情報を出しあったり、「自分ならこういう授業をつくる」という、授業全体のデザインをどうするかを語り合うほうがより生産的であると思います。

 例えば、「総合的な学習の時間」の準備でも、「どのような資料がどこで得られるか」「あるものをつくる時のコツや生徒への助言の仕方」「どういうアプローチがありうるか」「自分ならこの教材をどう取り扱うか」などの、単元や当該時限のデザインをおのおのが語りあっていくことが、各先生の授業づくりにつながります。おそらくそれは、一貫性を持ったかたちで授業者が授業をデザインしていくための「実践知」を交流できるからだと思います。

 第3に、先生が授業を語りあうことで、理解が深まったり、視野が開かれていく時というのが、「同じ事実を別の視点から見ることができる語り」のなかにあるということです。例えば、「授業の本筋からそれていった」ことに関して検討している際に、「それは内容の本質や筋からはずれたのではない」と別の人が意見を出すことによって、その場面の見方は変わっていきます。

 「その子がクラスで浮いている」と見るか「クラスの周りの子がその子を受け入れていない」と見るかは、同じことのようですが、その子やクラスに次にどうかかわるかに違いが出てきます。

 またその時、話題が授業者にとって思い当たるフシがあること、例えば、「同じことが授業の別の場面でも見られた」というように指摘され、それを自分でも納得できたり、ビデオでその姿を具体的に確認できたりすることが大切です。常に事実を元にした語りをしない限り、その指摘は受け入れられることはありません。

 また「その場面の出来事が、その生徒にとってどのような意味を持つのか」「単元の展開において、その場面はどのような位置づけであるか」など、当該場面だけではなくより広い見地からの意見ならば、納得できたりより深く考えることができるともいえます。例えば、「あの子が抵抗したり拒んだりするのは、先生が学校らしい文化を強要する時ではないか」といったように、個々の行動を抽象化して見ていった時に、改めてものの見方が深まったり変わっていくことがあるようです。

 「実践を見て語り合うことで、互いの見識を高めていく」という核となる文化が形成されれば、学校も教師も変わります。生徒も教師も学びあえる学校づくりに大いに期待したいと思います。

 1年間おつき合いいただきありがとうございました。どうぞご意見をお聞かせください。

【あきた・きよみ】1957年大阪府生まれ。立教大学文学部教授を経て現職に。専門は学校心理学・発達心理学。教師教育についても深く研究している。著書は『日本の教師文化』(東京大学出版会、共著)、『教室という場所』(国土社、共著)など。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第262号 2001年(平成13年)3月1日 掲載



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