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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(3)

「権限拡大」のもとで
求められるのは
管理職による
「促進的リーダーシップ」

 5月号で述べたように、「教育効果の高い学校」研究は、学校ごとの教育成果の違いを生み出す校内要因を提示しました。その一つとして「管理職による強力なリーダーシップ」があります。

 1980年代半ばにアメリカ・フロリダ州の校長資格・養成・研修改革を推進したクローガン教授を、数年前に訪ねたことがあります。改革案づくりに先立つ実態調査のチーフを務めた彼は、しみじみと次のように語りました。

 「たくさんの学校を訪問調査しましたが、高い成果をあげている学校へ行くと、必ず優れたリーダーシップを発揮している校長がいたのです」

 この言葉は、先の「教育効果の高い学校」研究の結果にぴったり合致しています。少なくともこの話をうかがったときの私は、すんなりとそう受けとめました。

 おそらく勘の鋭い読者なら、「校長がグイグイ引っ張っていけば、学校はよくなっていく」という常とう的な話がこのあとに展開されると思われるでしょう。でも現実は、それほど単純ではありません。強力に引っ張っていきそうな校長がいても、先生方のやる気が沈滞気味の学校は少なくありません。また、校長の存在感が薄くても、先生方や子どもたちの間に活気が充満している学校は珍しくないはずです。

 実は「教育効果の高い学校」研究の結論には、その後、さまざまな異論が提起されました。その最大の問題点は、これらの研究において対象となった学校の地域的限定性です。保護者や地域全体が子どもの教育に関心を持たず、教員も消極的になってしまいがちな状況を抱えたなかで、あえて頑張っている学校が対象とされていたのです。そのような学校で効果を発揮した管理職のリーダーシップを、ただちに一般化するわけにはいきません。

 日本の現実を見ても、保護者や地域の、学校に対するかかわり方は千差万別です。無関心な人がいるかと思えば、教育熱心だけれど学校の方針とは相容れない考えの方もいらっしゃいます。教育ニーズも多様です。一元的なリーダーシップではとうてい対応できないはずです。

 それからもう一つ。この結論の問題点は、ややもすると管理職の強力なリーダーシップが、教授・学習活動に直接的に働きかけるかのように解釈されるところです。しかし、それも素直に納得しがたいことです。特に、一般に、小学校より大規模で「教科の専門性」という枠組みが強い中学校や高校では、授業のあり方に対して管理職がダイレクトに影響を及ぼすというのは考えにくいことといえるでしょう。

 一般企業などの他の多くの組織と比べてみても、学校は構成員である教員の個人的裁量が格段に大きい組織です。教授・学習活動は、個々の先生方の自主的な判断の積み重ねに大きく依拠しています。そのような学校の特性を顧みない取り組みは、早晩、破綻してしまうでしょう。

 このように考えてくると、管理職の影響力は重要ではあるけれど、教授・学習活動との関係は間接的なものとして理解すべきです。両者の間には、授業の質を直接左右する教育目標、授業計画、個人の力量、学業期待度などをめぐって繰り広げられる教員同士の相互作用(=学校内部過程)が媒介しています。そしてさらに、保護者・地域の人々によるさまざまなかかわりも、その内部過程にリンク(連携)しているわけです。

 日本より15年ほど先行して学校裁量拡大施策を進めてきたアメリカ合衆国でも、権限自体は校長のもとにゆだねられています。でもそこで校長がとるべきリーダーシップのあり方は、さまざまな主体間の相互作用である学校内部過程を、促進し助長するような(=facilitative)もの、と理解されています。「学校の自主性・自律性の確立」を目指す日本の教育改革にとって、このことは大いに示唆に富むものだと思います。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第265号 2001年(平成13年)6月1日 掲載



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