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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(8)

アカウンタビリティは、
「説明責任」というより
「教育活動の継続的改善への責任」

 学校関係者の間で「説明責任」という言葉が急速に広まっています。その重要なきっかけをつくったのが、1998年9月の中教審答申でした。同答申は、「学校評議員」制度を提案する際に、教育目標、教育計画、自己評価を保護者・地域住民に説明する学校の責任について言及したのです。

 「説明責任」は、「アカウンタビリティ(accountability)」の邦訳として用いられてきました。これはもともとは会計関係の用語で、事業者が託された資金を目的通り適正かつ有効に執行したという事実を説明する責任を指しています。ただし、今では公共性の高い事業や専門家による職業行為にかかわって、社会の幅広い領域におけるキーワードとなっています。事業・行為の主体が、一般の人々からゆだねられた使命や目的に基づいて、有効かつ適切にそれを実施して成果を生み出すということに対する責任を意味するわけです。

 「アカウンタビリティ」も「説明責任」も、日本の学校関係者にとってはつい最近までなじみの薄い言葉だったと思います。でも、実は学校経営や教育行財政等の研究者の間では、1970年代以降、公教育の責任を論じる際の重要な概念の一つとして知られてきました。ちなみに70年ごろというのは、「落ちこぼれ」という嫌な響きを持つ言葉が日本のマスコミによって使われ始めた時期です。

 今、時代は「学校の自主性・自律性の確立」に向けて動き始めています。それは、個々の学校をアカウンタビリティの基礎単位として明確に位置づけることを意味します。ほかならぬ個々の学校が自らのカリキュラムを編成・実施し、その結果に責任を負うということです(「それならどうして教科書採択権を各学校にゆだねないのか?」など、疑問は依然として少なくありませんが…)。

 では、学校がアカウンタビリティを果たすとは、具体的に何をすることなのでしょうか?

 アメリカでは、学校裁量権の拡大とともに、各学校のアカウンタビリティを厳しく問うシステムが導入されてきました。州内統一学力テストの結果で学校に等級をつけ、それを公表することも行われています。学習指導要領を大綱化して「特色ある学校づくり」を志向する今の日本の場合、そのような一元的な指標をいっせいに当てはめて学校のアカウンタビリティを問うことは不適切でしょう。

 教職員や児童・生徒の構成、到達目標、教育改善計画等を広く地域住民に公開する「パブリック・アカウンタビリティ・レポート」の作成を各学校に課すというアメリカの動向にも関心が向けられているようですが、その根本的な関心が学校から保護者・地域への「説明」に終始している限り、学校の改善にはそれほど重要な意味をなさないと思います。

 「専門家による説明」と言えば、医療における「インフォームド・コンセント(説明と同意に基づく治療の責任)」が思い浮かびますが、教育の場合、客観的なデータや数値で説明しうる事柄は限定され、言葉で一度や二度説明するだけでは必ずしも理解や納得・合意は得られません。それどころか、逆に反発や不信を生み出す可能性さえはらんでいます。

 このように考えてみると、学校は、保護者や地域住民との双方向的コミュニケーションを続けつつ、教育の質をより高めることに取り組む責任を課されるのだといえます。当然ながら、それは教職員自身が学校の現状を見つめ直す「学校の自己評価」にもつなげられるべきものです。

 したがって、学校にとって「アカウンタビリティ」とは、「説明責任」というよりも「教育活動の継続的な改善に対する責任」としたほうが的確だと考えますが、いかがでしょうか。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第270号 2001年(平成13年)12月1日 掲載



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