「『学校のアカウンタビリティ』とは、教育活動の継続的な改善に対する責任ではないか」と、昨年の12月号で述べました。そのためには、学校が自己評価の仕組みを備えることが不可欠ですが、それは容易なことではありません。

　「二人以上の人間」が「共通の目的」を持って「協働する」とき、そこには「組織（organization）」が生まれるとされます。どんな組織であれ、目的の達成度に照らしながら組織活動の現状と成果を診断し、その診断をもとに、組織内部に必要な変更を加えていかねばなりません。そうしないと組織の存在そのものが危うくなるからです。つまり、組織は自らの存続をかけて、自己評価を行うのです。

　ところが学校では、自己評価の営みが必ずしも根づいてきませんでした。多くの学校で行われてきたはずの「学校評価」は果たして組織の自己更新へつながるものだったかどうか、疑問です。「学習指導要領」、「標準授業時間数」、あるいは「学級編制規準」など、他律的に枠づけられた基準さえ満たしていれば、特におとがめを受けることはない…。学校を取り巻くそのような制度的環境は、「個々の学校が自らの存続をかけて自己評価する」という切迫した緊張感をもたらさないできた、と言えるでしょう。

　しかし、各学校独自の学びを創造すべき「総合的な学習の時間」の創設は、そのような制度的環境を崩すものです。さらに、成育・生活環境の変化に伴う子どもたちの変容は、教師の経験に基づいた、一面的な子ども理解の有りようを揺るがしてもいます。学校を取り巻くこうした現状は、学校における自己評価の実質化を強く要請するものです。

　ただし、それを教師集団の自発的な努力のみによって行うことには限界もあります。そこで注目されるのが、保護者や地域の人々の眼（め）です。

　昨年度から学校評議員制（教育経営懇談会）を導入した静岡県沼津市立第二小学校は、今年度、より具体的な教育活動の改善に取り組むため、「外部評価」を実施しました。自由記述中心の質問紙を全児童の保護者と地域の人々に配布して回収・集計するという方法です。

　先生方が夏休み中にあれこれと思案しながら作成した質問紙には、学校教育目標に照らして「子どもたちのようすはどうか」「『総合的な学習の時間』についての学校からの説明は十分か」「運動会など各学校行事はどうだったか」「教師に求めることは何か」など、広範にわたる設問が並んでいます。調査は無記名で実施され、保護者211名（家庭数の76％）と地域の方46名（配布数の46％）から回答が得られました。

　先生方をうならせたのは、回答欄に心を込めてつづられた一つひとつの文章でした。内容的には厳しい指摘でも、わが子の成長を願う熱い思いがひしひしと伝わってくるのです。地域の人からも、子どもたちを見守る温かい気持ちと、積極的な協力姿勢が随所に表明されていました。

　昨年11月に開かれた教育経営懇談会では、その結果をもとに、活発な意見やアイディアの交換が行われました。そこでも学校の現状に対する厳しい見方が表明されましたが、議論の方向は当事者意識に根ざした建設的なものでした。

　保護者や地域からもたらされるこれらの情報とそのベースになっている学校への思いは、教師集団による「自己評価」への取り組みを刺激しないではおかないでしょう。

　学校評議員制は、教職員以外の人々の意見やアイディアを学校内部に取り込んでいくためのルートを、初めて正式に開いたものです。教育活動の継続的改善につながる自己評価を促す要因として、それをぜひとも活用したいものです。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』（第一法規出版）、『諸外国の教育改革と教育経営』（玉川大学出版部）、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』（学文社）などがある（いずれも共著）。