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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(11)

「特色ある学校」は
共同のプロセスを
通じて創られる

 中央教育審議会が「生きる力の育成」と「横断的・総合的な学習の推進」を提起したのが1996年7月でした。あれから6年近い年月が過ぎ、この4月から新学習指導要領が実施されました。

 その間、教育の規制緩和・地方分権へ向けた施策は急展開をみせ、いくつかの自治体では公立小・中学校の学校選択制が導入されました。教育改革国民会議による「コミュニティ・スクール」構想も、実現への道が探られているようです。このような動きは、これまで私たちが当然のものとして抱いてきた「公立学校」概念に、さまざまな側面から「揺さぶり」をかけています。

 「特色ある学校づくり」という言葉の解釈にも、それをみてとることができます。この言葉は、学校関係者の間でかなり以前から使われていました。そして98年7月の教育課程審議会答申が「教育課程の基準の改善のねらい」の柱の一つに「各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること」を挙げたことで、新学習指導要領に基づくカリキュラム編成のキーワードとなりました。

 これまで「特色ある学校づくり」といわれると、私たちはまず、各学校が存在する地理的範域としての「地域」と、そのうちの一定範囲からなる「通学区域」に暮らす子どもたちの実態と実情を思い浮かべました。「学校の特色」とは、それらに即して、地域、保護者、子どもたちとの相互作用を通じて考え、創り上げていくべきものだととらえてきたのです。「学校を地域に開くこと」も「家庭・地域との連携」も、そのような文脈のなかで一貫性をもって理解されてきました。前述の教育課程審議会答申の、「各学校には、地域や学校、幼児児童生徒の実態等に応じて、創意工夫を生かした特色ある教育を展開し、特色ある学校づくりを進めることが強く求められている」という記述にも、そのような認識がうかがわれます。

 その場合の「学校の特色」とは、「当該校に通ってきている子どもの実態やニーズを踏まえ、それらを生かした教育活動を創ること」に尽きます。「他校との差異」を意味するのではありません。

 しかし、「学校選択制」推進の議論がなされるにつれて、それとは異なるとらえ方が幅をきかせてきています。「他校との差異を打ち出し、それを支持する子どもと保護者をいかにして引き寄せるか」ということです。

 「選択制」が機能するには、近接した地域のなかに異なる内容や質をもつ複数の学校が存在することが必要です。そのため各学校は、「他校との差異」をいかに打ち出すかという点に経営上の重大な関心を払い、教育委員会もまた、それをすべての学校に促すことになるでしょう。

 人事や予算等の自由裁量が強く制約された状態で「他校との差異づくり」に腐心し奔走することになったとき、果たして教育活動は本当に改善されるのでしょうか。

 東京大学の藤田英典さんが指摘するように、「学校という商品は選択購入する時点では未完成品」であり、「それを完成品にするのは、入学した子どもや保護者であり、教師と子どもや保護者が日常の諸活動を通じて完成品にしていく」ものです(『市民社会と教育』世織書房)。まだ子どもがいないところで構想された「他校との差異づくり」案がそのまま実現されるわけではありません。

 「学校の特色」が教師と子どもとの間の「教授・学習活動」である以上、それは教師と子ども、さらには保護者や地域の人々をも交じえた地道な相互作用を通じて、しだいに創り上げられていくものです。「他校との差異」は、粘り強く続けられるそのような共同的なプロセスの結果として関係者の意識のなかに刻み込まれていくものだといえるでしょう。

 「他校との差異づくり」を前面に出した「特色ある学校づくり」論には慎重でありたいと思います。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第274号 2002年(平成14年)4月1日 掲載


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