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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(12)

拡充する「個人研修」の
成果を、学校の教育力
向上へつなげよう

 ある中学校を訪問した際、学校要覧の教職員一覧に見覚えのある名前を見つけました。備考には「大学院長期派遣中」とあります。

 彼は私の前任校で、学部卒業後すぐに大学院へ進学し、院を修了して教職に就いた方でした。私が着任したときはすでに中学校の先生で、ほんの数回お会いしただけですが、快活で意欲的な先生という好印象が鮮明に残っています。

 校長先生によれば、「ぜひ大学院で学んでみたい課題がある」という本人の強い希望から、現職教員の長期派遣として2度目の大学院生活を送っておられるとのこと。その話しぶりから、学校現場復帰後の彼に対する大きな期待が感じ取れました。

 「教員が現職のまま2年間にわたって大学院で研究する」という研修制度が導入されて20年以上がたちました。私が出会った数少ない「現職院生」の例からみても、あわただしい職務を離れて自らの実践を振り返り、課題を論理的に追究していく経験は、確かに有意義です。「授業を聴く立場に回ってみて、生徒の気持ちがよくわかるようになった」という意味深長な効果も、もちろんその意義の一つですが…。

 いまやすべての教員養成系大学・学部に大学院が設けられ、先生方が修士課程で学ぶチャンスが広がりました。履修形態も柔軟化されています。昨年度始まった「大学院修学休業制度」は、全国で155人の教員が利用したそうです。1年間で修了できる課程の設置や「パートタイム」履修など、今後も履修形態の多様化はさらに進むでしょう。

 一人ひとりの先生が、自分の学びたいことを学びたい場所で学ぶ。その機会が拡充されることは、よいことです。しかし、一方で危惧されるのは、「肝心の学校のなかは、いったいどうなるのか」ということです。

 大学院での教員研修は、アメリカの制度をモデルとしています。課程履修が資格上進に結びつき、その資格が個人のキャリア・アップにつながるという社会的背景のもとで、大学院における教員の現職研修が根づいてきました。

 午後3時ごろには勤務を終えて、週2回程度、夕刻から近くの大学へ通って授業を履修する。あるいはまた、土曜日は終日、大学で授業を受ける。このような教員が学校のなかに数人いるというのが、ごく普通の状態だと思われます。

 学校の役割や教員の仕事に対する一種の「社会的合意」によって立つ教員の勤務形態のもとで、こうした状況は成り立っています。研修は個人にメリットをもたらすもので、勤務時間外に「自己責任」のもとで行うべきもの、という認識も根底を支えています。

 ところが、1990年代を通じて進められてきた学校への権限委譲と「学校のアカウンタビリティ」の要請は、教員の研修を「学校としての教育力の向上」とも言うべき視点でとらえ直す動きをもたらしています。教員リーダーが中心になって「校内研修」を企画し、勤務時間のなかで定期的に研修会を開くという取り組みが行われてきているのです。

 「アカウンタビリティ」とは、学校で教育活動を運営・実施する立場からみれば「教育活動の継続的改善の責任」だと、以前、このコーナーで述べました。個々の教員が持つ知識・情報・スキルなどの「専門性」を校内で共有・活用することによって相互に高め合い、授業改善につなげることが、そのカギを握っていると言えるでしょう。

 学校裁量拡大施策が進行するアメリカで、従来「個人主義」的な様相を呈してきた教員研修に学校単位の「共同」的な要素が加えられている事実は、日本にとっても示唆的です。学校外部での「個人研修」の拡充が進行すればするほど、それらの成果を学校全体の「教育力」として還元していく組織的な取り組みが重要になるのだと思います。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総研発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第275号 2002年(平成14年)7月1日 掲載


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