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岐路に立つ日本の教育(2)
公立中・高一貫校がはらむ問題−その1

 公立中・高一貫校導入が、昨今の教育改革論で注目を集めている。第15期中央教育審議会では、6月に出す最終答申で、制度改革の目玉の一つとして、その選択的導入を提言するとのことである。

 この問題は、1971年に第9期中教審が提言して以来のテーマで、85年の臨時教育審議会第一次答申でも「6年制中等学校」として提言されたが、94年、宮崎県立五ヶ瀬中・高等学校が特例措置により開校され、さらに昨年末、東京都立大学が「6年制附属学校」の設置構想を公表し、いよいよ現実味を帯びてきた。すでに述べたように、今期中教審判はこれを制度改革の目玉の一つと考えており、橋本首相も今年1月の国会での施政方針演説で、その実現に強い意欲を表明している。

 これは一連の改革案のなかでも、日本の公教育のあり方、とくに小・中学生の教育に重要な変化をもたらす可能性のある重大問題である。そこで今回と次回の2回にわたって、この改革がはらむ問題について考えることにしよう。

 まず、当面考えられているのは少数の一貫校導入であるから、その場合の問題点について考えてみよう。

 第一に、一貫校推進論者は、「高校受験がなくなるから、ゆとりと一貫性のある教育が可能になる」というが、それは「選ばれた子どもたち」だけに当てはまることであって、残りの大多数の子どもたちは今までと同様、「高校入試の重圧」から解放されないし、「ゆとりと一貫性のある教育」をしてもらえないということになる。この一点を考えても、一貫校推進論が独善的でエリート主義的だということは明らかであろう。

第二に、一貫校推進論は、「受験競争を激化させないことが大前提だ」というが、どのような選抜が行われようとも広域募集・広域選抜が行われるかぎり、その学校は「選ばれた者だけの学校=エリート校」になる。

 第三にその学校の評価がよければよいほど、そのための受験競争が問題化するようになり、私立や国立の中学受験が盛んな東京などと類似の状況が地方にも広まることになる。

 しかし、公立中・高一貫校導入がはらむ問題はそれにとどまらない。もっと重大な問題は、それが中学校入学段階における学校選択の自由を先導するという点、および、それと連動して「6・3・3制」の枠組みが崩れていくという点にある。

 まず、中学校選択の自由について、現行制度の下では、相応の理由があれば指定校の変更ないし区域外就学が認められることになっているが、それはあくまでも個別的な例外措置であって、公立小・中学校の選択の自由は基本的には認められていない。ところが、公立中・高一貫校は、一貫校入学者には中学校選択の自由を認めることになるから、一般の3年制中学校に入る生徒との間に不公平が生じることになる。一貫校入学者に認められる学校選択権がどうして3年制中学校の入学者には認められないのか、という不満が強まることになっても不思議ではない。もちろん一貫校が拡大することになれば、その場合、この問題はもっと現実的なものとなる。

 一貫校であれ3年制中学校であれ、中学校段階での学校選択の自由が認められることになると、日本の公教育は根幹から変質を迫られることになる。

 第一に、中学校段階から学校の序列がつづけられるようになり、中学受験の圧力が小学校の生活と学習を歪めるようになる。

 第二に、小学校が自分の意思と判断で学校選択を適切に行えるとは考えにくいから、親や家庭の教育力・経済力の差が今以上に子どもの教育機会を左右するようになる。よくいわれるように、小・中学校の受験は、子どもの競争というより親の競争であるが、一貫校導入はそうした傾向を強めることになる。

 第三に、子どもたちの生活が今以上に地域社会から切り離されることになる。

 このように公立中・高一貫校は、一部の「選ばれた子ども」にはメリットであり得ても、大多数の小・中学生にとっては、デメリットのほうがはるかに大きいプランである。

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版]  第217号 1997年(平成9年)5月1日 掲載


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