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●チェンマイ研究便り -1-
(2004年7月30日)

田中治彦(立教大学)

開発教育とは

昨年(2003年)の9月よりタイ国のチェンマイ大学で1年間研究生活を送っています。タイでの研究を紹介する前に、私がこれまでやってきたことをお話ししましょう。私は立教大学では社会教育と開発教育を教えています。開発教育については最近はようやく一般にも広まってきましたが、まだなじみのない方も多いと思われますので少し説明しましょう。

開発教育は日本では1980年頃から始まった教育活動で、当時「開発途上国」と言われた国々が抱える諸問題や国際協力のことを日本の子どもや市民に伝える教育学習活動でした。タイも含めた「南」の国々の貧困や貧富の格差の問題を見つめて、それらの問題を解決するために、日本のような「豊かな」国に住む私たちに何をできるかを考える学習活動です。日本では開発教育協会(DEAR、当時の名称は開発教育協議会)がこの運動を進め、今では全国に1000人くらいの会員がいます。私は設立当初から関ってきましたが、2002年からはDEARの代表をしています。

貧困や南北格差の問題を扱うと聞くと、何やら難しい教育活動に思えるかもしれません。しかし、実際はやりがいのある楽しい学習です。というのは、「南」の国々の人々の生活や文化を知ることは興味深いですし、彼らの生活や生き方から自分たちや日本を振り返ることもしばしばです。また、最近は例えば「世界がもし100人の村だったら」を題材にした参加型体験型の教材が多数開発されるなど、魅力的な教育活動になっていて多くの人がワークショップなどに参加しています。「世界と出会うことで、自分を見つめ、他者とつながり、社会に関わる糸口を見つける」という学習プロセスが、特に若者に人気がある理由でしょう。


ヨハネスブルグ・サミット

このように開発教育の考え方も20年前と比べると随分広いものになりました。最初は「南北問題学習」や「援助教育」の側面が強くて、実際に「南」の国々で援助活動をしてきた青年海外協力隊員や国際協力NGOの関係者が、自らが見てきた悲惨な現実を日本の人々に伝える、ということをしていました。しかし、その後「南」の問題が実は日本の問題と深くつながっていたり、あるいは開発問題が環境問題、人権、平和、多文化共生といった地球規模のさまざまな課題と密接に関係があることが明らかになりました。

2002年に南アフリカ共和国のヨハネスブルグで地球環境に関するサミット*1が開かれました。その際に2005年から10年間を「持続可能な開発のための教育の10年」*2とすることが決まりました。持続可能な開発とは、単に生態系の維持といった環境の側面だけでなく、貧富の格差の解消、文化・宗教・民族の違いを超えた共生、などが強調されていて、これまで開発教育がめざしてきたものと一致します。

*1 持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)公式サイト
*2 「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議公式サイト


タイとの出会い

そこで今回私がなぜチェンマイで海外研究をすることになったか、についてお話ししましょう。私が北タイと出会ったのは今から13 年前にバンホーンという村でワークキャンプをしてからです。その時は、村の人たちと一緒に保育園の塀作りをしました。その後、毎年のように北タイを訪れて学校やNGOなどを訪問してきました。幸い昨年から海外研究休暇がとれることになり、これまでの断片的な調査ではなく、この際きちんとまとめてみたいと思った次第です。せっかく1年もいるのでタイ語も学びたいと思いました。

そこで研究テーマですが、持続可能な開発のための教育がタイという国のなかでどのように実践されているのか、あるいは今後どのような課題があるのか、ということを探ることが主な目的です。そのために、タイの学校教育で行われてきた環境教育について調べたり、貧困の解消や人権の擁護のために活動しているタイのNGOの教育学習活動について調査しています。とりわけ参加型開発や参加型学習と呼ばれる教育活動に注目して、それらがタイではどのように取り入れられて、どのように消化されてきたのかを聞いています。日本でも参加体験型の学習の必要性が叫ばれるようになったのはここ10年くらいのことですが、実はタイでもほとんど同じ時期に導入されて発展してきました。


次回は…

北タイの学校で使われる「私たちのピン川」という環境教育カリキュラムについて、3回目はNGOが行っている参加型開発と参加型学習についてご紹介することにしましょう。

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田中治彦(たなかはるひこ)
立教大学文学部教授。開発教育協会代表理事。2003年9月からチェンマイ大学客員教授(2004年9月まで)。専門は社会教育、開発教育。研究室のホームページはこちら
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