トップページ サイトマップ お問い合わせ
研究室 図書館 会議室 イベント情報 リンク集 運営事務局

 トップ TOPICS一覧




●チェンマイ研究便り-2-
(2004年8月27日)

田中治彦(立教大学) *前回の原稿はこちらからご覧いただけます。


「ピン川」カリキュラムとは

 ピン川はタイ−ビルマ国境を源流として、チェンマイ市を横切り北タイ一帯を潤し、やがてチャオプラヤー川に合流してシャム湾に注ぐ大河です。ピン川保全協力協会に集う北タイの先生方は、3年かけて「私たちのピン川」と題するカリキュラムを開発しました。私はこのカリキュラム作成のセミナーと完成したカリキュラムの研修会に参加して、ピン川カリキュラムに大変感銘を受けました。それは、ピン川カリキュラムが次のような特色をもつものだからです。

 ひとつはこのカリキュラムは文字どおり「総合的」であって、「理科」「社会」「表現」のバランスがよくとれていることです。川を題材にしたカリキュラムはとかく水質測定など理科的な要素に偏りがちです。それに対してこのカリキュラムでは、川沿いの地域に出かけていってその村の水利や産業について調べたり、古老に過去のピン川について聞き取りをする、などの学習活動があります。

 また、導入部分ではピン川を歌った曲を聞いて過去のピン川をイメージして絵を描くという活動があります。さらに調査報告のやり方も多彩で文章あり、絵あり、歌あり、演技あり、といったところです。カリキュラム自体すべての教科で展開できるようにくふうしてあり、小学校から高校まで使えます。すべて行おうとするとおそらく30時間以上はかかりますが、クロスカリキュラムなので各教科に落として同時並行で実践しています。

 第二の特徴は、このカリキュラムが過去のピン川、現在のピン川、将来のピン川と時系列的に進められていることです。過去と現在の現実を知り、村人たちの知恵やNGOの保全活動に学びながら、最後はこれからのピン川をどうしたらよいのかというプランニングにまで至ります。持続可能な開発のための教育のモデルのようなカリキュラムです。*1


日本・タイの教材を介しての交流

 昨年の12月に私がカリキュラム作成のワークショップに参加したときのことでした。チーム・リーダーのワサン先生(チェンマイ大学)から「日本の環境教育の活動を紹介してもらえませんか」と言われました。そこで開発教育協会が作成した「パーム油のはなし−地球にやさしいってなんだろう?」という教材の一部を実際にやってみました。タイの先生方はこの教材の手法である参加型の学習*2にとても関心をもってくれました。

 そこで、日本の開発教育協会のメンバーとタイのピン川カリキュラムのグループが交流すれば双方にとって得るものは大きいだろうと考えました。
 というのは、日本では2002年から総合学習が始まり、環境や国際理解の実践が進んでいます。タイも同じ年にカリキュラム改革があり、「ローカル・カリキュラム」が導入されてカリキュラムの約3割が地域や学校に委ねられることになりました。参加型の学習や学校独自のカリキュラムづくりが強調されているのに、現場の先生方はそのやり方に慣れておらずとまどっている、という事情は日タイに共通するものだからです。

 「持続可能な開発のための教育(ESD)のカリキュラム・日タイ交流セミナー」はこの8月19-21日にチェンマイYMCAを会場にして行われました。日本とタイの教員やNGOスタッフそれに学生ら約50名が参加。日本側からは前述の「パーム油」に加えて「地球の仲間たち」と「レヌカの学び」という多文化理解のためのワークショップが紹介されました。タイ側からはピン川カリキュラムが説明され、中1日のフィールド・トリップでは環境教育を実践しているチェンダオの中学校と、ピン川の保全活動を行っている2つの村を訪問しました。

 日本側の参加者はピン川保全のために村人とNGOと教員とが緊密に連携していることに感心していました。またタイの参加者は欧米のワークショップとは一味違う開発教育協会の教材に大きな関心を寄せていました。今後とも年に1度程度、このような日タイ交流セミナーを開いて、持続可能な開発のための教育を両国が協力しながら推進したいと考えています。*3


*1
 「ピン川」カリキュラムの翻訳作業を現在進めてます。邦訳完成をご期待ください。
*2
 開発教育協会が作成する参加型の学習教材等、出版物・教材全般についてはこちらで参照できる。また、約150点の教材を収録したデータベース「教室と世界をつなぐ教材カタログ」も参考になる。
*3
 持続可能な開発のための学びについてはこちらが詳しい。

==========================================================================
田中治彦(たなかはるひこ)
立教大学文学部教授。開発教育協会代表理事。2003年9月からチェンマイ大学客員教授(2004年9月まで)。専門は社会教育、開発教育。研究室のホームページはこちら
==========================================================================


Copyright (c) 2000-2003, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。

利用規約 プライバシーポリシー お問い合わせ
チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は、
ベネッセ教育総合研究所の支援のもと運営されています。