トップページ サイトマップ お問い合わせ
研究室 図書館 会議室 イベント情報 リンク集 運営事務局

 トップ TOPICS一覧




●チェンマイ研究便り-3-
(2004年10月1日)

田中治彦(立教大学) *前回の原稿はこちらからご覧いただけます。

NGOの参加型学習

北タイのNGOが参加型学習の手法に積極的に関心を示したのは今から15年ほど前のことでした。北タイのNGOは1980年代に農村開発、保健医療、教育などの活動を積極的に展開していたのですが、これらが数年を経ずして行き詰まったからです。その原因のひとつは、プロジェクトが「上から下へ」行なわれていたことにあります。すなわち、大学卒の優秀なNGOスタッフがその知識と技術をそのまま村レベルに導入しようとしたのです。結局村人たちにはプロジェクトの意味が理解されず、技術も地元のニーズに合わず、結果的にプロジェクト自体が成功しなかったのです。

この苦い経験からNGOは「ローカル・ウィズダム(土地の知恵)」を重視して、村人とともにプロジェクトを進めるように方向転換することになりました。例えば、IMPECT(Inter Mountain Peoples Education and Culture in Thailand Association /タイ山岳民族教育文化協会)では、山岳民族の人たちが知っている森の中の薬草に関する知識をまとめて記録しそれを活用する、というようなことをしています。あるいは前回出てきたピン川保全協力協会では、ピン川沿いの村々が百年以上に渡って使用している木と石による人工堰の知恵と知識を収集し共有するというようなことをしています。そして、新たなプロジェクトの計画から実施の過程に村人を実質的に参加させることが求められました。いわゆる「参加型開発」といわれるものです。

しかしながら、当時のNGOには参加型開発の理念はわかっても、どうやってそれを実現してよいのかという「手法」がありませんでした。そこで、1980年代の後半にチェンマイ大学やNGOのリーダーが共同で、参加型開発の提唱者のひとりであるロバート・チェンバースをタイに呼んできてPRA(参加型農村調査法)などの参加型開発の具体的な手法を学ぶことになります。*1


タイで「貿易ゲーム」をやってみた

今回の私の調査では、北タイで参加型学習がどのように行なわれてきたのか、そしてDEAR(開発教育協会)がもっているワークショップの手法と交流できないものか、という点に関心がありました。しかしながら村レベルで行なわれている参加型開発とそれに伴って行なわれている参加型学習を調査するのは容易なことではありません。参加型で行なわれる開発というのは3−5年といった時間を必要とするものですし、何よりも村では標準タイ語ではない北タイ語を理解しなければなりません。私の限られた滞在期間ではそれは無理でした。

さまざまなNGOを回ってインタビューするなかで、この5月にようやく調査の糸口を見つけました。それは北タイ開発財団の一部門である持続可能教育促進研究所(ISDEP)を訪ねたときでした。ISDEPはNGOのスタッフや村のリーダーを対象に指導者養成を行っている団体です。彼らのNGO研修会の様子を見たのですが、そのときはジェンダーをテーマにワークショップを行っていました。そこで行なわれていたことはDEARが普段やっていることと大筋で共通していました。

所長のプラヨットさんにDEARのパンフレットを渡して私たちの活動を説明しました。すると、プラヨットさんはDAERの教材の中でも特に「貿易ゲーム」*2に関心を示しました。「タイのNGOは、グローバリゼーションを村人にどう説明してよいのかわからず困っています。NGOは難しい事柄をより難しく説明しがちなのです。このゲームはシンプルで面白そうだ」と言うのです。

そこで日を替えて私がISDEPで「貿易ゲーム」を実際に行うことになりました。当日は10数人のNGOスタッフが集まりました。皆さん、ゲーム自体にもとても没頭してくれましたが、その後の議論は延々1時間も続きました。このゲームをタイでどのように活用できるか、ということとグローバリゼーションとは何なのか、ということが議論の中心でした。プラヨットさんは最後に3つ要望を出されました。ひとつは、DEARの他のワークショップについても紹介してほしいこと、二つめは自分たちが村で行っている参加型学習を観察してもらってアドバイスしてほしいこと、三つめは日本で参加型学習を学びたいこと、でした。特に二番めの申し出は私にとっては今後の調査を進めるうえでとても嬉しいことでした。


チェンマイ滞在の成果

前回ご報告した持続可能な開発の日タイ交流セミナーやISDEPでのワークショップを通して感じたことは、日本の開発教育関係者がこれまで作成してきた教材やワークショップは国際的にも十分通用するということです。またそれらの作品は、非常にきめが細かく作りが丁寧であるという特徴をもっています。このあたりは日本の電化製品や職人のこだわりを感じさせるものがあり、私たちも日本文化のよいところを受け継いでいると実感しました。

この8月で1年間のチェンマイ滞在が終わりましたが、ピン川保全協力協会に関わる先生方やISDEP周辺のNGOスタッフたちと知り合えたこと、そして今後の調査研究や国際協力の礎を作ることができたことが今回の海外研究の最大の成果でした。


*1
ロバート・チェンバースの参加型学習の手法については『参加型ワークショップ入門』(明石書店、2004年)を参照されたい。
*2
「新貿易ゲーム」(開発教育協会・神奈川県国際交流協会 制作・発行)についてはこちらが詳しい。

==========================================================================
田中治彦(たなかはるひこ)
立教大学文学部教授。開発教育協会代表理事。2003年9月からチェンマイ大学客員教授(2004年9月まで)。専門は社会教育、開発教育。研究室のホームページはこちら
==========================================================================


Copyright (c) 2000-2003, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。

利用規約 プライバシーポリシー お問い合わせ
チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は、
ベネッセ教育総合研究所の支援のもと運営されています。