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●探訪・子ども研究室-3-
(2005年2月25日)

今月のナビゲータ:長崎康子さん(公立はこだて未来大学システム情報科学部助手)

未来大学の紹介

公立はこだて未来大学(以下、未来大)は、平成12年4月に開学した情報系の大学です。昨年3月に初めての卒業生を送り出しました。平成15年には大学院(博士前期・後期課程)も開設されました。現在、学部では約1000名、大学院では社会人学生も含めて約60名が学んでいます。 

未来大には「複雑系科学科」「情報アーキテクチャ学科」の2学科があります。積山薫教授の研究室(以下、積山研究室)は情報アーキテクチャ学科に所属し、心理学関連の授業を担当しています。


なぜ未来大で心理学?

情報アーキテクチャ学科のカリキュラムは、プログラミング、人工知能、ハードウェア技術、ネットワーク、データベースなど、情報科学や情報工学が主となっています。それらに加えて、「認知心理学」も必ず勉強することになっています。概論や統計法の講義に加えて、実験演習と実験レポート。心理学専攻ではないのに、かなりハードな内容です。情報系の学科でどうして心理学?と思われるかもしれません。「コンピュータを使って生活をより豊かにしたい」「生活に役立つロボットを作りたい」「人が使いやすいようにデザインしたい」、このような目的を実現するためには、人間の行動や認知について知らなければ始まりませんし、それらについて科学的に調べる方法を身に付けることは有益だと我々は考えています。また、設計したコンピュータやロボットが人間にとって使いやすいか、役に立っているかを評価する際にも、心理学的手法が大いに役立つに違いありません。


積山研究室の紹介

未来大の学生は4年生になる春に卒業研究に取り組む研究室に配属されます。積山研究室に学生が配属されてまだ2年足らず。研究室の慣習や恒例行事はまだありません。研究の進め方を先輩に助言してもらうこともできません。でも、先輩が居ない分、先生に直接指導してもらえる時間も多いのも事実。積山先生は後で述べるように国内外で共同研究をしているので、その関係の研究者の方々と接する機会も多々あるのです。

では、実際にどんな研究が行われているのか具体的に見てみましょう。次の4つの図を見て、それぞれ右手か左手かを考えてみてください。<図はこちらをクリック>

正解は、左から左手・左手・右手・左手です。
どの図が難しかったでしょうか。ほとんどの人にとって、左から2番目の図(正立した像)が一番簡単です。これは、自分の手をこのような角度で見る機会が多いからだと言われています。実際に図を提示してから答えるまでの時間(反応時間)を測ってみると、正立した像に対する反応時間が最も短く、そこから変化する角度が大きくなるにつれて反応時間が長くなります。このことから、右手か左手かの判断をするのに、頭の中で手の図を正立するまで回転させているのだろうと推測できるのです。この現象はメンタルローテーション(心的回転)と呼ばれ、人間が画像をどのように分析しているかを知る手がかりとなります。積山研究室では小学校や児童館の協力を得て、子どものメンタルローテーションの調査をしています。左右の区別が身についていく過程の子どものデータは色々な知見を与えてくれると期待されています。

積山研究室では、視覚と聴覚の統合現象(マガーク効果)についても、子どもの調査をしています。お互いに顔が見える状態で会話をしている場合、話し手の唇の動きの情報が耳から聞こえる音に影響を与えることが分かっています。この現象のことをマガーク効果と呼びますが、大人に比べて子どもはマガーク効果が起こりにくいことが知られています。

また、マガーク効果は外国語の知覚の際にはより起こりやすい、という報告もあり、言語背景と発達過程の両方の作用を見るために、オーストラリアにある西シドニー大学マッカーサー聴覚研究所との共同で日豪両国の子どもたちの調査を行っています。

子どもを対象とした研究ではありませんが、積山研究室を語るときに抜きにはできないのが「逆さめがね」を使った研究です。逆さめがねというのは、左右や上下がひっくり返って見えるようにつくられたものです。逆さめがねを初めてかけた人は、物を取ろうと手を伸ばしても見当違いのところを触ってしまいます。歩こうとしてもバランスをくずしてしまって、数歩しか歩けません。傾いた体勢を立て直そうとしても、どんどん傾いてしまいます。ところが、逆さめがねをつけたまま何日も生活すると、だんだん逆さまの世界に慣れてきて、キャッチボールも自転車に乗ることも出来るようになるのですから驚きです。

この逆さまの世界に順応していく過程を、さまざまな課題を通して詳しく分析します。さらに、課題を遂行しているときに脳のどの部分が活動しているかをfMRI(機能的磁気共鳴イメージング法)も使って調べます。逆さめがねを長期着用してもらってデータを取ることも、大学では医学部以外にはみあたらないfMRIという大掛かりな装置を使うことも、実際はとても大変なことですが、この数年間、大学の授業が休みなる期間等を利用ながら、逆さめがねの研究は続けられています。実は、心理学的視点を持ちつつ生理学的な指標(脳波やfMRIなど)を用いる研究が多いのが積山研究室の特徴です。その根底には、人間の知覚や認知のシステムと脳の働きのメカニズムを明らかにしたい、という夢があります。

一昨年には、積山先生自身が逆さめがねをかけた実験がなされたと聞けば、この研究にかける先生の意気込みを推し量ることができるのではないでしょうか。


未来大の特殊な事情

未来大の建物はガラス張りの開放的なデザインが特徴です。建物の外壁だけではなく、教室と廊下の間も、教員室と学生の勉強スペースである「スタジオ」の間の壁もガラス張りです。先生も学生も、お互いの行動が丸見えなのです。教員側からすれば、学生が学内のどこで何をしているのかを把握するのが容易ですし、学生からすれば先生の仕事ぶりを見て学ぶことも多々あります。電話中や来客中であることや、忙しそうな様子も分かりますから、声をかけてよいタイミングを見計らうにはもってこいの構造なのですが、心理学実験をする時にはちょっと困るのです。実験とは関係のない余計な物や人が見えたり、余計な音が聞こえたりすると、実験の結果に影響するかもしれないからです。未来大には、その目的にかなった部屋として、心理学実験室と防音室、無響室がありますが、卒業研究のピーク時には部屋の取り合いになることもあるんです。
 

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公立はこだて未来大学
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