トップページ サイトマップ お問い合わせ
研究室 図書館 会議室 イベント情報 リンク集 運営事務局

 トップ TOPICS一覧




●探訪・子ども研究室-4-
(2005年4月1日)

今月のナビゲータ:篠原郁子さん(京都大学大学院教育学研究科博士後期課程2年・日本学術振興会特別研究員)


遠藤研究室の紹介

私の所属する遠藤利彦助教授の研究室(以下、遠藤研)は、京都大学大学院教育学研究科・教育科学専攻・教育方法学講座の中の発達教育分野というところにあります。

この発達教育分野では、一生に亘る人間の発達を考える生涯発達心理学を基礎とした様々な授業、ならびに研究活動が行われています。また、21世紀COEプログラム「心の働きの総合的研究教育拠点」において、京大の多様な心理学研究分野が連合して設立された「心理学連合」に参加しているため、シンポジウムや国際ワークショップが多数開催され、心理学の幅広い分野の知見に触れる機会に恵まれています。

遠藤先生が京大に赴任されてまだ数年ですが、この研究室に所属する学生も段々と増え、にぎやかになってきました。学生が取り組んでいる研究テーマは多岐に亘り、発達心理学に限らず感情心理学や社会心理学などの領域についても様々な研究が行われています。対象となるのは赤ちゃんから成人まで、さらに研究方法も質問紙、インタビュー、観察、実験と幅広く実施されています。先生の温かいご指導のもと、それぞれの学生が自分の関心に沿ってのびのびと研究をしている研究室です。また、研究活動に加え、京都市が実施している市営保育所の巡回相談にも随行しています。そこでは、保育所を訪れ保育の様子や子ども達の姿を見せていただき、保育士の方々とのよりよい保育実践にむけた話し合いを行っています。


赤ちゃんの気持ちを読み取る

遠藤研で行われている子どもに関する研究を概観すると、先述のようにテーマは多様です。例えば、社会文化的通念としての母親役割の信奉傾向と育児の実践、親が子どもに対して有する発達期待と子どもの行動、子どもの自己主張行動の発達について、等々があります。

例として私の研究を少し具体的に示したいと思います。

赤ちゃんと接していると、ふと窓の外に向いた視線に対して「お外で遊びたいのね」と声をかけたり、「アーアー」という声に「お母さんがいなかったから寂しかったのね」と話しかけるなど、声や視線、手足の動きから、赤ちゃんの「気持ち」を読みとってしまうことがありませんか? 実際に生後間もない乳児が、発声や行為の背後にそういった感情や欲求を既に明確に有しているかどうかにかかわらず、一般的に大人は実に頻繁に、乳児からそれらを読みとりがちであることが指摘されています。しかし、こういった読みとりには、お母さんによっても個人差がありそうです。そこでお母さん方を対象に、複数の赤ちゃんビデオを見て頂き、ビデオの中の赤ちゃんの気持ちについて質問しました。

この実験の結果、全く同じ赤ちゃんビデオに対して行われる気持ちの読みとり回数や、読みとる具体的な内容には、お母さんの間で広範なばらつきが存在することが見えてきました。さらに、お母さんとご自分のお子さんである生後6ヶ月の赤ちゃんとの遊び場面を観察したところ、ビデオ実験で赤ちゃんの気持ちを読みとる回数が多かったお母さんは、自分のお子さんと遊ぶ時に子どもの感情や欲求など内的状態について言及することが多いという結果が見出されました。

このような子どもの内的状態に焦点をあてた言葉かけや関わりは、子どもが自分や他者の心の理解を進める上で重要な役割を持っていると考えられています。そこで現在、お母さんによる子どもの気持ちの読みとりやすさ、それが影響を及ぼしうる子どもとの具体的なやりとりの仕方が、如何に子どもの心的理解の発達に関連しうるのかという問いについて、乳児期から幼児期にかけた縦断研究を実施しています。


人と人の関係の中で子どもをみる

子どもの研究、というと子ども自身の認知や行動特徴を直接の対象とする研究が主になるのかもしれませんが、遠藤研では「子ども」と「子どもを取り巻く社会的環境」に関心を拡げた研究が多く行われています。それは、例えば、子どもが何歳になると何がどんな風にできるようになるのかということへの興味だけではなく、その周囲に存在するであろう、「子どもの発達を支えているもの」に興味があるということになるのかもしれません。

子どもは一人で生きているのではなく、親やきょうだいをはじめとする他者との関係の中に生まれ、育っていく存在です。こういった視点に立つと、子どもとその周囲の人々、さらに両者の社会的なやりとりを考慮することが重要であるように思われます。子どもと緊密な関係を持つ親が有している親役割の信奉傾向や発達期待、あるいは子どもの気持ちの読みとりやすさなどは、子どもとの日々のやりとりを通して子どもの発達に影響しうるのかもしれませんし、また逆に、子どもの現在の姿、そして発達の様子が親の期待や認知に影響を与えることもあるでしょう。子どもの如何なる発達にも実に様々な要因が絡んでおり、その包括的なメカニズムの解明は無論、決して容易ではありません。それでも、子どもの育ちとその周りにいる人々との社会情緒的関係を切り離さずに考えていくことが大切な一歩なのではないかと思います。


むすびにかえて

いろいろな分野に関心を持つ学生が集まるこの研究室。先生からのみならず、先輩をはじめ学生同士、様々な視点から助言を得られるのがいいところです。理論的な指摘から、実験のデモンストレーションにおける表情の細部にわたる演技指導まで、お互いに研究について相談しあうことが多々あります。そして、質問用紙の製本作業を皆で手伝いながらの研究相談は、最初は分析方法や統計の話だったのが、いつのまにか人生相談に………私たちもきっと、この研究室のみんなの温かい関係の中で育てられているのでしょう。

==========================================================================
京都大学大学院教育学研究科 教育方法学講座 発達教育分野
ホームページはこちら。研究内容や研究会等のお知らせも掲載されている。
21世紀COEプログラム「心の働きの総合的研究教育拠点」については、こちらに詳しい。
==========================================================================


Copyright (c) 2000-2003, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。

利用規約 プライバシーポリシー お問い合わせ
チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は、
ベネッセ教育総合研究所の支援のもと運営されています。