トップページ サイトマップ お問い合わせ
研究室 図書館 会議室 イベント情報 リンク集 運営事務局

 トップ TOPICS一覧




●プレゼントつき・脳科学を学習と教育に役立てるしくみ
(2005年4月15日)

いまから6年前、1999年に経済協力開発機構(OECD)が学習科学と脳研究の連携を促進し、脳科学を 学習と教育に役立てることを目指す「学習科学と脳研究プロジェクト」を開始したのをご存知ですか。日本でも2001年に「脳科学と教育」をテーマにした国家的な研究プロジェクトが始まり、現在に到ってます。では、そもそも脳科学を用いると学習や教育の何がわかるのでしょうか?

OECD教育研究革新センター(CERI)による『脳を育む 学習と教育の科学』は、脳科学を用いて何を解明しようとしているのかを教えてくれます。日本語に訳された小山麻紀さん(オックスフォード大学生 理学部博士課程)に、翻訳の苦労 話も含め、本書の内容についてご紹介いただきました。


本書との出会い

OECD「学習科学と脳研究プロジェクト」に国際諮問委員として参画されている小泉英明先生(日立製作所役員待遇フェロー)に初めてお会いしたのは1年前のこと。2004年4月に神戸で開催された国際ディスレクシアシンポジウムの会場でした。*1 小泉先生はかねてから本書 の日本語訳本の出版を計画されていたようですが、翻訳を依頼されたときには正直大変驚きました。

読み書き、ディスレクシアの研究に携わる私自身、脳科学と教育の架橋・融合には、小泉先生がおっしゃる「環学性」*2 という概念が必要だと信じています。多くの人々にその重要性を伝えることができるのならば…と一念発起して「やらせてください」とお返事をしたのでした。

*1 国際ディスレクシアシンポジウムについてはこちらに詳しい。
*2 全く異なる諸分野を架橋・融合することで、独自の概念的構造を持つ新しい分野が生まれるという 概念を説明する用語。


翻訳を通して学んだこと

この本の翻訳から、多くのことを学びました。興味深かったことの一つは「神経神話」または「三歳児神話」という俗説に取り組んでいる点です。

親は我が子の将来を考え、より良い教育を与えたいと思うでしょう。ですから、「シナプス形成という科学的知見によれば、3歳までの学習が脳科学的に大変重要である…」と聞いたら、小さいうちにできるだけたくさんのことを子どもに体験させようとするのは親心です。たとえそれが子どもにとって負担になることがあっても、これがベストだと信じて無理をさせてしまうこともあるでしょう。

いっぽうで、動物実験で得られた知見が同じように人間に当てはまるとは必ずしもいえません。また学習にも色々な種類があります。本の中でも紹介されていますが、文法のように幼少期の学習が大切なものもあれば、語彙習得などは生涯を通じて起こります。

子どものためにも、そして子どもを想う親のためにも、脳科学による知見の正しい理解と教育現場の声が融合して、効果的な教育が提供されるよう私自身も研究に携わっていきたいと感じました。


付録は日本語版オリジナル

意を決して望んだとはいえ、完成までの道のりは遠く険しいものでした。英語を文字通りに訳しても 、日本語では意味不明のものになってしまうことは多々あり、かつ本書のテーマである科学研究を知 らない人にとっては用語一つとっても理解できないものが多くありました。

悩んだ結果、科学的だけでなく文化的意味合いを説明した補足を加えることにしました。
例えば、本書86ページで脳の可塑性について述べているのですが、その脚注(56)では「海馬」という脳部位とロンドンのタクシー運転手の関連性について紹介されています。「海馬」は空間記憶に関連しているといわれていて、ロンドンのタクシー運転手の海馬の大きさと脳活動は、彼らのナビゲ ーションの熟練度、そして運転手になってからの時間と関連しているという報告がされています。

ここで文化的補足が必要となっています。なぜ、ロンドンのタクシー運転手の脳なのか…? なんとロンドンの正規タクシー運転者は、ロンドン市内の道の名前と所在を記憶するよう条件付けられていて、そのための試験に合格する必要があるのです。つまり、空間記憶をフル活動させなくてはいけない仕事に従事しているタクシー運転手が被験者として選ばれたわけです。


子どもに携わる全ての人へ

この本を、教育に携わる人々、そして保護者の皆さんに読んでもらいたいと思います。教育現場には様々な問題を抱えている子どもがいます。読み書きができない、算数ができない、注意力が乏しい…などなど。その困難の中には、社会的環境や本人の意欲だけでは説明できないものあります。怠けているわけではないのに、できないという現実は、子どもにとっても親にとって非常につらいことです。

脳科学と教育の架橋・融合を強調しているこの本の翻訳を通じて、日本の将来を担う子どもたちが幸せに学習できるような教育制度の実現を心から祈ります。そして自分自身もその実現のための研究にこれからも携わっていきたいと考えています。

==========================================================================
『脳を育む 学習と教育の科学』
 編著:OECD教育研究革新センター(CERI)、監修:小泉英明、訳:小山麻紀
 明石書店(2005年2月) 定価1890円(税込み)
==========================================================================
◆プレゼントのお知らせ(協力・明石書店)◆ 募集は終了しました
CRNメンバーズに登録されている方から抽選で1名様に本書『脳を育む 学習と教育の科学』をプレ ゼントします。(CRNメンバーズの登録がまだな方はこちらからご登録ください。)


Copyright (c) 2000-2003, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。

利用規約 プライバシーポリシー お問い合わせ
チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は、
ベネッセ教育総合研究所の支援のもと運営されています。