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こどもサイエンストーク
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実施報告

テーマ あっと驚く、遺伝の謎を解き明かそう
実施日 2003年1月11日(土)
場所 「ながやまチーきち」(東京都多摩市)
参加者 小学5年生男子7名、女子5名 小学4年生女子4名
ナビゲーター 宮下孝広(白百合女子大学教授)、安藤寿康(慶應義塾大学教授)、沢井佳子(チャイルド・ラボ所長)



 子ども学研究会のメンバーがナビゲーターとなり、「子どもサイエンス・トーク」というモデル授業を行いました。今回のテーマは「あっと驚く、遺伝の謎を解き明かそう」。多摩市にあるCRNの実験工房「ながやまチーきち」で、小学生たちと遺伝について考えました。
 当初は8人ほどの少人数を想定し、リラックスした雰囲気の中、子どもたち同士でさまざまな話し合いをしてもらおうと考えていました。しかし、多摩地区の小学校に呼びかけたところ16人という多くの子どもたちが集まり、急遽学校の授業のように椅子を並べてナビゲーターの話を聞く講義形式になりました。
 今回は、子どもたちが断片的にもっている遺伝をめぐる素朴な知識を引き出すことが目的でした。ナビゲーターが体系立った知識を教えるのではなく、子どもたちの中から出てきたものをつなぎ合わせて、改めて考えさせ、表現していくきっかけを与えることを意図しました。

 大まかな段取りは次の通りです。進行役の宮下孝広先生が、まず子どもたちに有名人の親子の写真を見せて、それについての感想を述べさせます。それから、身近な自分たち家族の「似ている・似ていない」の話をさせます。そして、子どもたちが少し問題意識をもったところで、遺伝の仕組みについて科学的な話をします。その後に行動遺伝学の研究者である安藤寿康先生が、一卵性双生児について実験ビデオを交えながら詳しく解説をします。最後に子どもたちの質問を受けたり、感想を述べてもらったりして終わるという予定でした。
 子どもたちに見せた親子の写真は、写真家の立木義浩さんの『親と子の情景』という写真集から取りました。横尾忠則さん、小澤征爾さん、仲代達矢さん、ガッツ石松さんなど有名人の親子写真です。遺伝の仕組みの科学的な解説のところでは、イギリスの分子生物学者で昨年ノーベル賞を受賞したジョン・サルストン卿の公開授業のビデオを所々見せながら、色付きのコップを使って遺伝子の組み換えについてデモンストレーションをしました。安藤寿康先生が使った実験ビデオは、双子に関するTV番組の特集の一部で、人間の心や行動が遺伝の影響を受けることを証明するために、一卵性双生児を実験観察した記録です。

 今回が初めての試みであり、また予定より人数が多かったこともあって、残念ながら子どもたちが互いに意見を交わし合うようなリラックスした雰囲気にはもっていけませんでした。自分の家族の話なら戸惑いもないのではと思いましたが、子どもたちも初めての仲間の前で緊張していたのか、口は重い感じでした。親子の「似ている・似ていない」という話題は身近なようで、父親似、母親似、祖父似、祖母似といったことは、それぞれ意識しているようでした。また、たまたま会場に兄と妹がいたので、二人を見比べてもらうこともしてみました。
 しかし、家族が似ているのは当たり前のことであって、そのようなことを遺伝という科学的事実と結びつける発想は、子どもたちにはもともとないように見えました。「こういうのって科学じゃないじゃん」――そんな意見も終了後のインタビューでは出ていたようです。
 子どもたちが関心を示したのは、遺伝子の減数分裂のデモンストレーションや、一卵性双生児に関するビデオでした。「遺伝子は必ず組み換わるので、遺伝は親子の共通点だけではなく、相違点も生み出す」「一卵性双生児と二卵性双生児は同じ双子でもまったく違う」「一卵性双生児は自然の生んだクローン人間だ」というような話に熱心に耳を傾けていました。

 子どもたちの科学への興味は、身近なところからというよりも、一卵性双生児やクローン人間のような何らかの不思議感覚とつながっていることが示唆されます。子どもたちが科学知識の断片をどのような意識で取り入れ、どのようなシーンでそれを想起するのか、改めて考えてみる手がかりを得ることができました。



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