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小林登文庫


育つ育てるふれあいの子育て
第3章「赤ちゃんのすばらしい能力-そのプログラムは体の成長、心の発達の原点 - 2」


誕生直後にしっかり抱いて愛のメッセージを

 さて、なぜ私が誕生直後の赤ちゃんの視力について、くどくどとお話しするのかを考えていただきたいと思います。
 誕生直後の赤ちゃんのそういうすばらしい能力について知ることは、とりもなおさず、その能力をないがしろにすることなく、赤ちゃんを一人前の人間とみなして、積極的に人間らしい育児に生かしてほしいと切望するからです。これは、これから赤ちゃんを生もうとしているお母さんだけでなく、その出産に関係する医療関係者のみなさんにもぜひお願いしたいことなのです。
 あえて分娩室をうす暗くせよとは申しません。しかし、無事に生まれて、へその緒も切り、産声があがったら、赤ちゃんを母親に抱かせてやってほしいのです。そのときこそ、部屋の照明を落とし、赤ちゃんがそのすばらしい視力でお母さんの目をみつめられるような状態をつくってもらいたいものです。
 お母さんもまた、赤ちゃんの目をみつめてほしい。指で赤ちゃんを軽くさわり、産道を無事にとおり抜けてきた「大事業」を、心をこめてほめてやってほしいのです。そして、乳首をふくませてあげて下さい。ほとんどの赤ちゃんはそちらに首をむけくちびるで追いかけて乳首をふくみます。ふくむと口を動かして吸啜運動をするのです。啜はテツともよみますが、すする、なめる、という意味で、それはおっぱいに陰圧をかけてストローですうように、のむというよりは、なめて、すするようにすうといういい方がぴったりするから、あえてそういう難しいいい方をしているのです。
 赤ちゃんにとって母乳をのみはじめるということは、すでに申しあげたように、おなかの中で指を吸ったり、羊水をのむことでトレーニングを積んできた吸啜の体のプログラムを、生まれてじっさいにためし、スイッチを入れるときがやってきたことを意味するのです。しかし、この行動は反射的で赤ちゃんが自分の意志で吸啜行動をするようになるのは、尚時間が必要です。
 このようにして、お母さんは生まれた直後の赤ちゃんの能力を、抱くことによって、目と目をあわせることによって、また乳首をふくませることによってたしかめ、赤ちゃんのいろいろなプログラムを働かせてほしいのです。赤ちゃんの安心と満足はそれ以上のものはなく、お母さんにとってもそれは同じでしょう。必ず母親になったよろこびにひたるに違いありません。
 こういった目的で欧米の産科や産院では、赤ちゃんが産まれた直後にお母さんに抱かせるということを積極的に始めたのはもう15年以上も前のことです。わが国でもそうする産科の先生方も少しずつふえているようです。
 お母さんと赤ちゃんは、こうやって最初の人間的なきずなを結ぶことができるのです。母と子のきずなは、これを最初のきっかけとして、より太く豊かになっていきますが、それが好ましい人生のスタートとなるのです。ぜひ誕生直後の母と子のお互いのふれあいを大切にしてもらいたいと思います。ふれあいこそ、愛のメッセージであり、お互いに愛のプログラムにスイッチを入れあう人間的な営みなのです。

生まれたばかりでも母親のにおいを知っている

 誕生直後の赤ちゃんの嗅覚に関する研究があります。一方には母親のにおいをつけたガーゼ、たとえばブラジャーの中に入れたものや母乳を塗ったものをおき、反対側には、何もついていない、あるいは他人の女性のにおいのついたものを赤ちゃんの顔の上に左右わけておいて、赤ちゃんがどちらを向くか、向く回数や時間を比較するという実験がイギリスで行なわれたのです。
 それによると、何回左右を変えても、圧倒的に母親のにおいのついたほうに顔を向ける回数が多いということがわかりました。生まれてすぐの赤ちゃんでも、一所懸命にお母さんのにおいのついているほうに首を向けるのです。においの本体は脂肪酸と考えられていますが、そういうものが羊水のなかにも存在していて、赤ちゃんは、そのにおいをしっかり覚えて生まれてくるのではないかと考えられています。
 妊娠後期にもなると、胎児は1日に約500ccも羊水をのむ(そのうち約450ccはオシッコとして排泄しますが)といわれていますから、羊水は鼻や口から何回も出入りさせながら、そのもののなかで生活しているのですから、忘れようにも忘れられないにおいなのではないでしょうか。
 そういうわけですから、生まれてすぐ、もっとも身近にいる人間のにおいが、胎児時代とは違ったにおいをもつ人であったら、赤ちゃんの気持ちはどうなるでしょうか。不安におちいるのではないかとも考えられます。生まれてはきたものの、今までと違ったなじみのない世界に放りこまれたような気持ちになるでしょう。母親以外は、みるもの、さわるもの、きくもの、すべてまったくはじめての世界なのですから。
 母親のにおいがわかるということはまた、夜電気も火もなかった時代でもそれによって母親の所在がわかり、乳頭を求めることが出来ます。
 このように、赤ちゃんは人間として立派な能力をもって生まれてきます。そのことを考えると、赤ちゃんが生まれてからはじめて、女性はお母さんになると考えるのではなく、妊娠とわかった直後から、「私はお母さんになった」という自覚をしっかりともつことが、いかに大切であるかがわかります。
 そう考えると、妊娠中にお酒をのんだり、タバコをすったりするようなことが、どんなに非常識で、おなかのなかの赤ちゃんを酔っぱらわせたり、酸欠にしたりして苦しめていることになるかが理解できるでしょう。もちろん、お酒をのんだりタバコをすいながら、赤ちゃんに哺乳したり、世話をしたりするのは問題外です。


このシリーズは「育つ育てるふれあいの子育て」(小林登著・風濤社 2000年発行)の原稿を加筆、修正したものです。



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掲載:2002/04/19